Date: Mon, 4 Jan 1999
昨年の秋頃から、私はそのことにうすうす気付いていた。
そう、履けるズボンがなくなってきているということに。
しかし、元々、年がら年中、おんなじ服を着たきりすずめになっても平気なファッションセンスゼロな人間なので、あまり深く考えてなかったのである。
同じズボンをずっと履くものだから、朽ちて擦り切れはじめる。それでもなお、「世の中には、わざわざ破ってズボン履いてる人もいることだし」と意味不明の屁理屈を持ち出して平気なつもりでいたのである。
トイレに行って、小用をしようと、社会の窓をオープンする(おぉ、懐かしい言い回しだ)すると、チャック(ジッパーと言っては雰囲気が出ない)が支える力を失ったズボン(当然、スラックスだとかトラウザーズとかパンツだとか言ってはいけない)の前からピーンとボタンがはじけ飛ぶ。それでもなお、「近頃の縫製は甘いなぁ」と話題を逸らしている。
年末に帰省して、「ちょっと太ったんちゃう?ええツヤな肌して」と言われて少し怖じ気づいたが、歓待を受けごちそうが出てきたら食べなければ失礼というものだ。
一息ついて、さすがにおなかが苦しいので、大きな用事を済ましに立ち上がる。実家のせまい和式にしゃがもうとする。「く、苦しい。足つりそう。しびれる。」そう、私はすっかり洋式に甘えてしまっていたのである。しかし、ここで人を呼ぶのはあまりにかっこわるい。私は左の臀部を痙攣させながらも、なんとか用を足し、おしりを拭こうとする。「あう、めっちゃやりにくい」
「うむ、胃と子宮では位置が違うが、妊婦さんのおうちでは洋式のウォシュレット付きが必要なのではないか?お相撲さんなんかどうしているのだろう?」と大腿部外側のしびれが治まるのを待ちながら空想する私であった。私の太ももには妊娠線ではないが、皮膚組織が体脂肪の増大に追いつかず、裂けたか、縫ったかのような縦すじがある。
実家には新たに電子式のヘルスメーターが導入されていた。身長を入力したのち、体重計に乗ると、BMIというのを計算してくれるのである。
BMI [Body Mass Index] 体重(g)を身長(cm)の2乗で割り、10をかけて求める。肥満度指数。
デジタル表示に出た数字はなんと80.0kg。 数字の下の欄で光っている横棒が左からどんどん右に移動し、パンパカパーン(そんなファンファーレは鳴らないが)と右端の「太り過ぎ」ゾ−ンで止まる。かくして、私は「太り過ぎ」認定されたのである。しかし、私は三が日、お雑煮とお酒を食さねばならなかったのである。
おそらく、熟成6か月くらいのビール腹であろう。確かに、私は、肝臓がフォアグラ、筋肉は霜降り、脳味噌は奈良漬、体液は粕汁になっている可能性が高い酒飲みである。
その上、最近数か月はしっかり3度の食事を取っている。ただし、朝昼晩ではなく、昼晩夜である。さらに、以前はビールだけ飲んでいたのだが、「何か食べながら飲まないと体に悪いよ」と言われて、何やら食べながらしこたま飲むようになったものだから、ますますもって高カロリーになっていったのだと思われる。何か食べながらでも、やたらと飲むのは体に悪い。
会社の食堂で食べる時には、なんだか一皿だと乗ってる品数がさみしいので、つい二皿取っていた。「品数増やそうと思ってたんだもんね」一応、ソースや醤油は極力あとからかけないように気を使ってたつもり。でも「カロリーが気になる人はフライの衣をはずすと40%のカロリーダウン!」と書かれていても、「べらぼうめ、衣を取っちゃったらフライじゃねぇじゃねぇか」あるいは、「あほか、衣取ってしもたらフライとちゃうやないけ」とバイリンガルで一人突っ込みをして脂っこいものを食してたような気もする。
とりあえず、飲み食いを抑えて、朝早く起きてバスを使わずに駅まで歩き、週末の歩け歩け大会もしっかりと開催して、体重10kg減、ウエスト5cm減を目標にするのであった。と言いつつ缶ビールを開けているのである。
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当時の本 『コンビニ ファミレス 回転寿司』中村靖彦(文春新書, 710円+税)ファーストフード業界の構造、そして、日本の「食」への警鐘。
当時の世 やっぱり直観的には1999年は世紀末なのかしら。
当時の私 夜道で、すれちがったおっちゃんに、「一瞬、かわいいネエチャンかと思った」と言われた。夜道の一人歩きは危ない。
これは慈姑(くわい) | こちらは慈姑頭 |
慈姑頭(くわいあたま)
江戸時代の髪型の一種。芽が出た慈姑は、縁起物としてお正月のおせちの定番ですが、髪全体をのばして後ろで束ねた、慈姑に似た髪型をこう呼びました。町医者が多く結ったので、俗に医者自身を指す言葉ともなりました。
小学館文庫しおり「おもしろ言葉めぐり」より引用