Date: Mon, 3 Jan 2000 記
「大阪駅の地下の通称アリバイ横町で、なにか買って帰ろうか。しかもどう見ても、ぼくが行ってるはずのない県の土産ものなんかを。」そこには各県の名産を置いてる店が出ているのである。
たぶん、大阪の人だと、大真面目に言い訳のためではなくて、ウケを狙って「これ、アリバイ横町で買うて来てん」と自ら白状する人が結構いるに違いない。
フェイクとか贋ブランドの品物でも、本物のふりをして澄まして身につけるより、「本物みたいやろ」と、ばらしながらとか、「ほんまもんとちゃうけど、ええやろ」と自慢しながら使うのが、大阪な感じではないかと思う。当然、元来、「着倒れ」の土地だから、本物に大枚をはたくのもやっちゃうのだろう。あ、「着倒れ」は京都だったか。
ふと、少し前にイカ焼きのネタを書いたのを思い出して、阪神百貨店の地下の食料品売り場に赴いた。歳末の買い出しで結構な人出であった。粟おこしとか、たこ焼き風味のお菓子とか、いかにも「わかりやすい」大阪風なものもあった。
急なお客様に便利な水羊羹
というコピーがおもしろいなぁと思った。ぼくは小さい頃「水羊羹は水って書いてあるのに、なんで液状やなくて固形なんやろ」と思っていた。大阪の稲荷寿司は三角形である。あられがゴソッと量り売りされてるのが、見てて面白かった。
店先ではいろんなものを、しきりと試食を勧められたりして、「これは、ほんとに、どうしようもなくおなか空いたら、試食コーナーだけで、結構腹の足しになるかもしれんなぁ」と思った。ま、通いつめると常習犯としてマークされるかもしれないが。昼飯を食ってないのでそそられたが、イカ焼きが待っているので我慢した。
イカ焼きのお店は行列であった。ぼくはここでちょっと奮発して、デラバン(タマゴが入ったのを、こう呼ぶのである。たぶんデラックス版という意味なのだろう)を5枚買った。温かさと鮮度が命なので、職場のみなさんに買って帰ってあげられないのが残念である。近辺で売ってるところないかしら。幸い、実家に着くまではホカホカで持ちそうだ。私はイカ焼きの匂いをプンプンさせながら、阪急電車に乗った。
さて、うちに着いて好評のうちにイカ焼きを平らげたあと、実家のお店番をした。電話を1本受ける。お客さんに「お父さんか、お母さんか居てはる?」と言われる。どうやら、ぼくでは頼りにならんらしい。
コーヒー牛乳の500cc入りパックを2個売った。久しぶりに店番なので、品物の値段が分からない。とりあえず一個100円にした。「200円です。」さすがの私も「200万両じゃ」などというベタなことは、さすがに言わない。お客さんは文句を言わない。どうやら正解か、ふだんより安く言ってしまったのであろう。
お客さんは1万円札を出した。ふと、ぼくは店のレジの開け方を知らないことに気付いた。
「あたたたたたたたたた」
と声を出さずに手当たり次第にボタンを押すが、むなしく
「ピーピーピーピーピー」
というエラー音がなる。やっとこさ開いたと思ったら、レジの中には5千円しかなかった。
こんだけしか入ってなくて、ほんまにうちは店かいな。
しかたがないので、自分の財布から出すか。と思ったら、大金持ちな財布の中は、諭吉先生しかいなかった。そこで、まるで空き巣のように、タンスやカバンを探りまくって、なんとか9千円見つかった。「お待たせしました。9800円お返しです。」
私は「ひとまず大きいほう」とか「お返しになります」とか言わない。
そうこうしているうちに、平穏に31日を迎え、例年通り、お得意先のそば屋さんから年越しソバの出前を取って、紅白歌合戦を見つつ、「今年は除夜の鐘聞くぞ...グカーグーグー」と、言った先から、どう聞いても呼吸器系の疾患があるに違いないと思いたくなる親父の大イビキをBGMにして、首相のY2K会見のあった25時頃をもって、私の1999は幕を閉じた。ノートパソコンと、新幹線内読書用に5冊も背負って帰省した私の背中で、カタコリニコフは領土を広げていた。
CM中につづく
---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の本 『おこげノススメ カルト的男性論』小谷真理(青土社, 1900円税別)外国作家のことはよく知らないけど、この本で取り上げられてる荒木経惟,
島田雅彦, 宮崎駿, 北野武あたりは好きですね。カルト的男性作家の作品に潜む、「女になること」への欲望と恐怖。
当時の世 私はこんどの夏には2000円問題で首相は引責退陣するのじゃないかと思う。っていうか、500円硬貨を受入れ拒否する自販機なんとかしてください。あと、JRのごみ箱に封印してるやつ。
私の末夢 電車で寝過ごしてどこかの登山鉄道で山の上に着いていた。なんでか、電車の中なのにぼくは布団の上で寝過ごしてたので、あわててぼくは、たたんで片づけたが、他の乗客に、「なにこの汚い布団」と言われて、自分のだと言えなくて捨ておいて、他の電車に乗り換えた。帰ってきた駅では昔の知り合いが3人くらいつるんで、駅前でナンパしていた。ぼくは、その辺りにいた、また別の知り合いに道を尋ねていた。