Date: Sat, 31 Jul 1999
当時、彼は慢性の肩こりに悩まされていた。どうも、肩こりがひどい。以前なら多少凝っても、一晩ぐっすり寝たら大丈夫って感じだったのだが、最近、どうも復活しない。ぐっすり寝てないのかもしれないし、仕事を前よりやってるのかもしれないし、単に歳をとって回復力が衰えただけかもしれない。
いわゆるクイックマッサージというのは効くのだろうか、と思うのだが、近所にないので、わざわざ出掛けてては何がクイックかわからない。「按摩・指圧」と書かれた看板のところは予約制が多いし、行ったら待合室でなんかご高齢な方に囲まれそうな妄想が広がってしまって躊躇したりする。
なんてことをボンヤリと考えながら、町歩きをしていると、「韓国式健康マッサージ ソウル」という、怪しげな看板を見つけた。どのくらい怪しいかと言えば、「中華料理 北京」くらいに怪しい。彼は以前、「北京」で餃子定食を頼んだら、ギョーザと一緒に、白いご飯と、お味噌汁に、お新香が出てきてずっこけたことがある。ラーメン的日本産中華だったのかもしれん。
余談であるが、ラーメンは中国の汁ソバが、日本で発達したものだから、拉麺男に中国の歴史を語らせてはいけない。
閑話休題(って言っても、この話は、ほとんど無駄話だが)
看板を見ると、「男性:30分 6000円 60分 10000円 女性:60分 8000円」とある。なんか普通のマッサージの倍くらいしてそうな気がする。ひょっとして、特殊な銭湯さんなんだろうか?でも女性のコースもあるみたいだしなぁ。なんでか男の方が割高で、なんでか30分の短いコースもあるようだ。むむ。
と謎を抱えたまま、貸し事務所の寄り合いのようなそのビルの階段を上っていった。そして、その階にたどり着くと、そこには、どうみても、「単なるマンションの一室」なドアの横に「マッサージ 営業中」と看板が出ていた。「あ、あ、あやしい」彼は、某英会話学校の玄関口で二の足を踏む「考える人」のようになってしまった。
意を決してドアを開くと、「カラン、カラン、カラン」とでかいチャイムの音がする。「曲者じゃぁ〜であえ、であえ〜」と先生方が出てきそうな勢いである。彼がその音に面食らっていると、奥から、ちょっとキツめなキレイなおねえさんが出てきて「イラッシャイマセ」と、まるで片言のようなご挨拶をするのであった。
「あ、あの、こちらのお店は予約制だったりするですか?」と、こちらもなんだか片言のようになって、聞いてみる。「今、ダイジョーブデスヨ。ドウゾ」と待合室のような所へ通された。そこにはなにやらエッチ系のマンガ雑誌が平積みされていた。壁にはチョゴリを着たきれいな女の人のポスターが貼られており、韓国の歌っぽいBGMが流れていた。壁に貼られた料金表には「ボディーシャワー」というオプションもあるようだ。「う、やはり特殊な銭湯さんなんだろうか」
さっきの女の人が戻ってきた。「オ客サン、コノ店ハ、ハジメテデスカ?」
「え、あ、はぁ。ところで、ここって普通のマッサージ屋さん?」
「ソデスヨ。肩、腰、足、イタイトコロ、マッサージ。ハンドサービスモアルヨ。」
説明をする彼女の片手は、何故か筒状に軽く握られている。
「ホントノマッサージ、時間カカルカラ、30分ダト、ミジカイデスヨ」
う、どうしよう。かなりお呼びでない状況だ。ええい、ままよ「30分デ、イデス」なぜかこちらも片言。
「オ会計、6000円ニナリマ−ス」「ま、前金制ですか」
「コチラヘドウゾ」と通された所は、普通のマンションの部屋の中をさらに、パーティションで区切ったような中に、人ひとり分サイズの小さいベッドと、その周りを、また辛うじて一人通れるようなスペースだけの小部屋であった。
薄暗い小部屋は、うっすらとピンク色の照明で照らされていた。「ピンク色でも写真の現像はできるのであろうか」とよそ事を考えながら、気をそらしていると、中に控えていたのは、胸の谷間もあらわにムギュムギュなトップに、股下0cmじゃないの?それって感じの超ミニのタイトのセパレートのコスチュームに身を包んだちょっとポッチャリしたおねえさんであった。
「イラッシャイマセ」と手を握ってきた。
やばい、これは、かなり、「あう」な状況だ。
世間知らずのカタコリニコフ青年は苦悩するのであった。
ひたいには縦線が何本か入っていた。
後半へつづく
(ちびまる子ちゃんのナレーション風に)
---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の本 『人生の達人 凡人観察法』夏目房之介(小学館文庫, 600円+税)虚実入り交じった、市井の人の観察記。ほんとにそういう人、いそうである。
当時の世 近所の学校で盆踊り大会が開かれていた。東京音頭と、ドラえもん音頭が果てし無くリピ−トしていた。
当時の私 カタコリニコフ。