(む}Family Complex

Date: Thu, 17 Aug 2000

世間ではUタ−ンラッシュらしいのだけど、ぼくは少しずらしたので、少し前に、済ましてしまったのである。時差出勤ではないが、世の普通より、すこしずれた方が、楽な気がする。

いや、それは好みの問題で、普通に適合できなければ、不安でしかたがないって方もいるのだろう。ぼくに言わせると、「それは普通強迫神経症なんじゃないの?」って感じだ。

ぼくの実家は自営業のお店である。週二で定休日はあるけど、それは、通常の配達が休みなだけで、集金業務や卸し売りみたいなお仕事は、やってるので、正月以外は完全休養日はないんじゃないかと思う。

働きものだなぁ。と思う。この夏の雪印騒ぎの影響か(って森永もなんか箱の消毒しくじってたが)、ぼくの滞在中にも、7月分のお支払いに来られて、「じゃ、8月からは、結構ですんで、止めてくださいね」というお客さんもあった。

今回帰って、さすがに店だから、あの二千円札の何枚かくらいはあるだろうと思ってたのだが、一枚もない。両親も「まだ見てない」と言っていた。それにしても、集金してきた金が無造作にテーブルに並んでいる。死んだ祖母が「あんたんとこは、お金転がしとくくらいお金持ちやから」と言って、叔母さん(母の妹)のうちの方にばかり、何かあったらお金をあげてた。と以前、母が言っていた。

小さいときは見慣れた光景だったはずだが、たしかに、今見たら、なんか、祖母派についてしまいそうな私である。大阪の人が「にせんえんさつ」と発音する場合、「んえん」の所が弱くなりがちなので、「にせんさつ」に聞こえて「偽札」みたいだ。

配達から帰ってきた父が、「飲むか」と缶ビールを出してくる。うちは酒屋ではないのだから、業務用の冷蔵庫の中に、ビールを入れてるのは、厳密には良くないのだろうが、冷えたビールがないと、親父殿はご機嫌が斜め45度くらいになるので、常備薬となっている。息子の私は特に冷えてなくても良いので、自室に冷蔵庫はない。

しかし、まだ午前10時である。さすがに父は、250mlの小さな缶一本である。それを飲みながら、朝の配達の片付けをしている。このあとブランチというか遅い朝食なのだが、温かいものが冷めてしまうまで食卓につこうとしないので、いつも母を困らせている。

いや、困ってはいない。いい加減、30年以上つきあってるので、もう呆れて慣れてしまっている。「ラーメン作ってくれ」と自分で言っておいて、そのラーメンが伸びきってしまうまで、なんかしら、ゴソゴソ仕事をしているのである。「いっつもこうや」と母がぼやく。

最近は、寝室は別。というか寝室なんていう部屋はうちにはないので、別の部屋に布団しいて、家庭内別居状態だったのだが、夏を迎えて、「二部屋、冷房かけるのは電気代がもったいない」という理由で、仲良くセミダブルの布団に、背中合わせで一緒に寝ている。

なんでくっついて寝ないのかというと、母に言わせると、「ヤニくさいし、酒くさいし、汗くさい。」のだそうだ。父は、しばしば、「風呂入る」と言って、服を脱ぎはじめたはいいが、そのまま眠ってしまう。素っ裸で勝手に寝ておいて、「クーラー効かせすぎや。寒い。」と文句を言う。

配達と配達の合間は昼寝タイムである。この時に、お客さんが来たり、電話が鳴ったりすると、大変、機嫌が悪くなる。「ええ気持ちで寝てたのに。」端から見てると、息苦しそうな寝息をたてているので、とても快眠しているとは思えない。

いつも電話でこっちがダルダルに返事しているのに、「元気そうやないか」と台本を棒読みしてるような台詞をいうものだから、健康診断で引っかかった話をしたら、もう今回の帰省時は、口を開けば「病院行け」「ええ子おらんのか」「健康管理のためにも結婚しよし」と言う。

じゃぁ、あんたらは健康管理のために結婚したんか。コラ。言うにことかいてしまいには、「得意先の誰々さんとこの娘さんに、紹介してって言われてるんやけど会ってみるか」などと言いだす。あやうく見合いをさせられるところである。「どんな子なんかはよう知らんけど」アホか、自分がよう知らん子を紹介しようとするな。

もうくたびれてヨレヨレになったTシャツにステテコ姿で、自動販売機に商品を追加する父。「かっちょわるいから、やめてくれ」と言っても、「今は、スケスケルックが流行りやしな」と瀕死の親父ギャグを言って、取り合ってくれない。昔からこの人はボケがひどいのだ。

母はというと、前回紹介した、おニュー(死語?)のズボンを自慢したあとは、「やっぱり、台所暑いわ。脱ご」と、Tシャツの下はパンツ丸出しでエプロンをして夕食の準備をしている。なんちゅう、はしたない格好してんねん。コラ。

これがまだ、「若奥様」とか「幼な妻」というキーワードとセットになれば、一部の悩める男の子をますます悩ます、怪しいシチュエーションになるのだろうが、いかんせん50も半ばの完熟娘なんである。彼女はテレビで街頭インタビューなんかやってる画像を見て、下に字幕で「主婦(45歳)」なんていう表現を見つけると、「うゎ、この人、めっちゃ老けてるわ。お母さんの方が、若いやんなぁ」と言う。はい、はい。

小学生の頃、同級生の家にお呼ばれしたりして、そこのお母さんが、きれいに着飾って、ていねいな言葉づかいされてたのを見て、「なんで、うちはそうじゃないんだろう」と思っていた。まぁ今思えば、その子のお母さんも、息子が友達連れてくるってんで、ちょっと頑張ってたのかもしれん。

しかし、世のお母さんは、風呂に入るときに、わざわざ「ほら、ヌード、ヌード」とか、のたまいながらウロウロして、「あ、こっち見てるわ。隠さな」なんていうボケをするだろうか。たぶん、しないと思う。

いつもは6時くらいに、会社の食堂で残業食を食べているのだけど、うちの晩御飯は配達があらかた終わる8時過ぎである。この2時間のタイムラグが結構効いて、いい感じで腹が減る。私は仕事をせずにのんびりしているので、ハラヘリニコフのデモ行進でクラクラすることはない。

空きっ腹にビールを注ぎ込む。汗が出る。「暑いんやったら、あんたもパンツになりよし」ぼくは固辞してズボンのまま。家族で、下着でビアパーティー。変な家だ。弟君は残念ながら、医者にもらってる薬と酒は併用してはいけないということで、”お茶け”である。

どんどん、ビンや缶が運ばれてくる。そしてしまいには「お前飲み過ぎや。もっと、体に気を付けろ」飲ましているのはあんたらだ。

---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の本 『無印良女むじるしりょうひん』群ようこ(角川文庫,460円税別)群さんの文体って、なんか若づくり(失敬)。それにしても、周囲におもしろい人を集めるオーラでも出されてるのだろうか。
当時の世 関東地方、あんまし天気よくありません。
当時の私 ここ数年ぶりに妙に残業量が少なくなってる。でも、バテてる。

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時差盆休みの効能をうたっておいて、本日、出張の帰りに、上りの新幹線に乗る羽目になった私。因果応報。