Date: Mon, 20 Jul 1998
髪を切った。といっても、もう1週間以上前。肩の辺りまで伸びて束ねていた髪を、散髪屋さんで「尻尾なしにするんで」と言って切った。散髪屋のにいちゃんも「切っちゃうの?」と言ったが、切った。いや、切ったのはぼくではなく、そのにいちゃんだから、細かいことを言うと、切ってもらった。「奈良の大仏(あるいは東京タワーとか国会議事堂でも可)を作ったのは誰か」という意地悪なぞなぞみたいだ。
結局、髪を伸ばしたわりに、あまり、その髪で遊ぶことはできなかった。ぼくの髪の癖はかなり強かった。伸ばしたらいくらか落ちつくかと思えばそんなことはなかった。ひょっとすると、もう少し伸ばすと、もう少し御しやすくなったのかもしれないが。
毎朝、ライオン丸になる髪を無理矢理、整髪料でなでつける。考えて見るとこれは、髪が短くなったって変わりない。それに短くなったといっても、マルコメ時代の小学生の時や、ぼくは野球部ではなかったけれど、高野連的レベルと比べると、はるかに長髪である。毎朝、整髪料をつけて、毎晩、シャンプーして。ぼくには吉川ひなのがやってたCMのような感慨はないのだが、これって、髪を結構いじめてないか?と思う。
でも、自分の髪の油を頼りにすると、あまりにベタっとしてよろしくないのかもしれない。近頃は髪の根元の脂を除去するのは育毛剤だけでなく、シャンプーの前のクレンジングなんていう製品もある。小さい頃、父に「シャンプーは髪しか洗わんから、地肌も洗わんといかんのや。」と無理矢理、石鹸を頭にすりこまれた記憶がある。当時はボディーシャンプーのような気の効いたものはなかった。
髪を伸ばしてみて思ったのは、「結構、髪の長い男も多いな」ということだ。自分がなってみて改めて思った。ま、おおよそ、いわゆる「ロン毛」の人と、「オタク」の人とは明らかに違うのだが、それにしても、自分が伸ばす前に思っていたよりは、やたらと目につくようになった、と思う。
でも、そういう人の多くは、比較的ストレ−トの髪質で「毛先にアクセントつけてみました」って感じであるのだが、こちとら、「根元からアクセントついてるっす」「全体についたらアクセントとは言わんっちゅうねん」とノリツッコミがこなせるくらいである。結わえていても、毛が立ち上がるから、満員電車に乗ったら、後ろの人の目に刺さるのではないかと気が気でなかった。
以前に、散髪に行った時、「癖が強いから、ストレートパーマでもかける?」と言われたこともあるのだが、なんだか、不用意な整形手術を受けるような気がして断った。
髪は切っても痛くはない。そういう点では、体の一部ではない。ヘアスタイルや髪の色を自在に変えたり、ヘアウイッグを使ったりする人にとっては、髪は体というより、服に近いものなのだろう。と思う。
町の中で「血液は人工でつくれません。血液が不足しています。献血にご協力ください」と拡声器でほえる声を聞く。「輸血だって、広い意味で、臓器移植みたいなもんだよな。」と思う感覚のぼくだから、髪は体なのかもしれん。
ぼくは、この白髪まじりの癖っ毛がぼくだと思っているので、髪を染めたり、パーマをかけるのは、今の自分自身が不確かなのに、そこにさらに変更を加えることになるのに抵抗がある。2度ほど染めてみたことはあるのだが、周りが無反応だったのと、なんらかの反応を期待していた自分が嫌になってそれ以来やめてしまった。無論、自分に手を加えてポジティブに変化を起こす効果もあるのだろうなとは思う。
マンガなんかで、人物の描き分けが髪形だけなんていう場合がある。こうなると、そのキャラクターは髪を切るわけにも伸ばすわけにもいかない。人は、相手を識別するのに、髪形によっている部分がかなりあると思う。
で、切った本人はどうなのか、というと、「ちょっと首の辺りがさみしいな。」「髪をかきあげた時に、指が抜けるのが早いな。」「肩凝りは、少しはましになったけど、別に全部が髪のせいではなかったのだな。」と思うくらい。
どうせ、自分は自分の顔を直接見ることはない。多少、以前より、寝癖の影響を受けるようになったとしても、それは知らぬが仏というやつである。
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当時の本 『踏みはずす美術史』森村泰昌(講談社現代新書, 680円)私がモナリザになったわけ…そう、あのポ−ズ。あのメ−ク。あの目線なんとなく黄色っぽい画面。美術は小難しく考えながら見るものではなく、着るもの。油絵oil
on canvasは染め物の服みたいなもの?
当時の世 外でセミが鳴いている。
当時の私 歩く足が重い。無論、足も物質である以上、質量があるのだが。
ぼくは、一応、タイトルだけは英語を使ったりするので、辞書を引く。
longhair
- 髪を長くした人。[特に]男のヒッピー;(世俗に疎い)知識人。インテリ。
- 芸術愛好家。[特に]クラシック音楽愛好家
当たってるような、いないような。はて、ロック愛好家ではないのか?ちなみに、私は特にロック愛好家ではないし、インテリほど知識はないし、ヒッピーというほどさまよってないし、オタクというほどにはディテールにこだわらない。