[*]Room for room 4

Date: Fri, 22 Jan 1999
Fri, 12 Feb 1999 記

契約の時には、なにやら、物件の管理会社まで出向く必要があるとのことであった。部屋の鍵を管理していたのは、物件にほど近い不動産屋であったし、ぼくは、申込書を書いたところの不動産屋に仲介を受けている。そしてまた別の管理会社があるってことは、「その度に、手数料のようなものが上乗せされてるんだろうな。」と思った。

「それは、地球上に増えすぎた人類が資本主義のシステムの上に載っかって利潤を上げて生きていくには仕方がないことなのだろうな。」
という風に解釈するのは、私のような分裂病質気質の人に特有の拡大解釈癖であろうか。自分の内面のことでなければ、世界とか宇宙とかの話になって、身近なことへの配慮に欠けるのである。

その管理会社は新宿にあった。担当が言う「この辺り、場所わかります?」「新宿までは電車乗ってたら行けますし、そこからは地図見ながらでも行きますよ。」私は、新宿に行っても、都庁方面にはあまり行ったことはない。「審査が終われば、管理会社の方から契約日の連絡がありますので」という担当さんの話を聞いて、「どうもお世話様でした」と私は仲介屋をあとにした。

数日後、仲介屋から電話が入る。「ちょっと、審査の方が終わってないようなんで契約日はもう少し、あとになります。」ま、日割りでかかるという家賃が減るのでいいかなと思う。でも、審査が手間取ってるってことは、「はて、親父の収入が過少申告で怪しいのであろうか?」それとも「じつは、俺が怪しい人だというのがばれて、審査が難航しているのであろうか」と思った。

さらに数日後、管理会社から精算書なるものが送られてきた。契約時には
・契約者の認め印
・契約金の振込控
・住民票
・顔写真2枚
・連帯保証人の承諾書
・連帯保証人の印鑑証明
を持ってきてください。と書いてあった。

契約金ってのは何だ。いわゆる敷金礼金のことか?と精算書なるものを見ると敷金2か月分、礼金2か月分、家賃(1月の日割り分+2月分)、保険料、文書作成料、町会費、仲介手数料(1か月分相当+消費税)の総合計が書かれていた。

礼金とは別に文書作成料(1000円)ってのを取るのかせこいな。礼金ってのは管理会社とオーナーとで分けるのだろうか?仲介手数料ってのは、こないだの仲介屋に入るのだろうか。鍵を管理してたとこにも入るのだろうか。あの担当さんには、そのうち、いくら入るのだろうか。家賃の高いところでも安いところでも、仲介の手間は変わらん気がするけど、一ヵ月分の家賃相当の手数料なのだろうか。謎な点は多いのだが、いちいち突っ込むのも面倒なので、「ふ〜ん、世の中、そういうもんなのね。」で済ますことにした。

しかし、「あう〜、いきなり6か月分+αも払わんならんやんけ!」でも胸囲が90くらいある私は、なかなか懐が深いので許してしまうのであった。チッ!!

契約日を土曜日に指定した私は、前日の金曜日に半休を取って、書類関連を用意することにした。「あ、しまった。一日全休にして契約を午後の約束にして、午前中に、区役所や銀行に行くって感じの方が効率ええやんか。」でも、その日の午後は、取引きのある業者からの問い合わせ対応をするはめになるのが分かっていたので、その案はあくまで理想論ということで片づいた。

役所は寮から二駅先にあるので、とりあえず、契約金の振込というやつを最寄りの銀行でやることにした。口座から振替って形でもいいのかもしれないが、金額の情報だけのやりとりだけでは味気ないので、一旦下ろしてから、振込をするつもりで、事前に50万円くらい下ろして、封筒に入れて持っていた。

だいたい、100万円で1cmくらいの厚さになると言われているので、私が持っている封筒は5mmくらいであろう。「おお、おいらは大金を持ってるんだぜ」と思うとドキドキする。ただでさえドキドキしているのに、窓口のおねえさんに応対されたのでは、ドキドキが過ぎて手が震えてしまうので、ATMで振込ってのをやることにした。(単に朝早く行き過ぎて、窓口は開いてなかったのである。)

それでも、振り込みという行為は麻雀以外に不慣れな世間知らずの私は、おもむろに操作したのち、約50枚の諭吉先生を投入した。
ババババババババババ
っと、札を数える音がして投入口が開く。数枚の1万円札が残っている。画面には

紙幣をご確認の上、フタを閉めてください。

とある。「ふむふむ、慎重にことを運ぶために、再確認を要求するのであるな」と私は理解するのであった。確認後、フタを閉めると、
バババババ
っと言ったあと口が開いて3枚を残して同様なメッセージが出る。「ほおほお、慎重に慎重を重ねるのであるな」と私は思う。
再確認後、再びフタを閉める。やはり3枚は受け入れられない。「もしや、この3枚は偽札なのか?それとも、この機械は、俺が振込初心者だと思ってなめてやがんのか?」と思う私であった。仕方がないので、財布から別の諭吉君を出して再々投入したら、すんなり終わった。謎だ。

滞りなくとまでは言えないけれど、無事に振込を終了した私は、電車に乗って区役所に向かった。駅で降りて、とことこ歩くと、総合庁舎の立派な建物が見える。「総合庁舎じゃことの気取りやがって、区役所だろが」と、無言でツッコミ。案内板を見ながら窓口のある二階に向かう。

またしても、窓口で応対されてはドキドキしてしまうので、何か自動で済むような設備はないのだろうかと思いながら、自動販売機のような機械に近づくと、それは、印紙の自動販売機であった。「やっぱり、窓口に行かなきゃならんのね」と観念して用紙に必要事項を記入すると、印鑑を押す所がある。

「ありゃ、今、ハンコ持ってないわ。」「まったく、誰がなんと言おうと、俺は俺本人やっちゅうねん」「どうしても、って言われたら指紋でもエイって押せばいいのだろうか」と独りノリツッコミを一通りこなした上で窓口の前に並んだ。

すると、私の前に並んでいたおっちゃんが、窓口の担当の人に、なにやら年金制度のあり方について、講釈をたれてからんでいた。担当の人は、厚生年金と国民年金の切り換えの話のようなことを簡単に言ったのち、「詳しくは、年金課の方にお問い合わせくださった方がよろしいかと思います。」と言った。すると、おっちゃんは、「あんた名前なんていうんだ」と言って担当さんの名前を聞いたのち、舌打ちして去っていった。こういうのは、マクドナルドで「スマイルください」というガキと同じくらいの日常茶飯事ってやつなのだろうか。

さて、私の番だ。「ああ、私ってばハンコを忘れたのねん」とやや弱気モードで窓口に向かうと、危惧に反してすんなり手続きは終わってしまった。

午後から出社して、私はほぼ予定通りに仕事を終えた。さて、次の土曜日はいよいよ契約日であった。普段、私が考えるにドキドキものの金額の物件を右から左、左から右に動かしてる商売の人のところに行くのである。わたしはいささか緊張しつつその日の寝床についたのであった。

というわけで、まだまだつづく

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当時の本 『河合隼雄を読む』講談社編(1500円)臨床心理学者の河合先生の著作を各界の人が読んだ書評集。良い加減にいけたらいい。悪と創造の根が同じだったりすること。それは大変むずかしい問題です。
当時の世 雪が降った。
当時の私 開梱作業ができないでいるので、いまだ、ダンボールの谷間に布団を敷いて寝ている。

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