[*]Room for room 5

Date: Sat, 23 Jan 1999
Mon, 15 Feb 1999 記

わーい、わーい。新宿だ。都庁だ。というんじゃ、まるで小学生の遠足である(いや、今時の小学生はもっと醒めてるのかもしれん)が、それよりかは、幾分、神妙な心持ちでその日の朝を迎えた。

数日前、連帯保証人であるところの父上様より、電話があった。「あのな。あれや。」(なんじゃ。また「あれ」かい)「"しゅうせんや"から電話があって、なんか承諾書とかいうの送ってくるらしいから。やっとくわ。ほんで、どないや。いそがしいんか。」(ほんまに、「こんにちは」みたいに、「いそがしいんか」と聞くなぁ。)「周旋屋」という語彙がなんだか独特の響きがある。近頃でもこの単語は普通に使われるのであろうか。

周旋屋 売買・雇用などで仲に入って世話をする(取り持つ・斡旋する)ことを業とする者。きもいり

ほほう、「肝煎」っていうのは、これのことだったのか。売買・雇用ってことは、部屋の賃貸の仲介だけでなくて、人材派遣とか、もしかすると、恋人紹介とか、結婚相談所なんかも周旋屋なのだろうか。

私は、本屋に行くたびに入れられてしまう某相談所の広告が、「平均○か月で婚約」をうたってるわりに、イメージガールのタレントさんは、ずっと同じだなぁ。ま、イメージだからかな。と少々気になっている。

本屋で買った雑誌の中の恋人紹介のお試しハガキの写真の中に、「別にタイプな人いないなぁ。」と思いつつ、「すぐ恋人ができます。」というわりに、モデルの人、ずっと同じだよな。と思う。それにしても、「すぐできる」のでは、まるでレトルトパックかインスタントである。味が落ちるのかもしれない。

いつものように話がそれた。契約は午後からである。こちらは早朝から目が覚めて手持ち無沙汰である。かといって、うれしがって「駅すぱーと」で新宿までの経路を調べたって仕方がない。とりあえず、洗濯やら部屋の片付けやらをしながら午前中を過ごした。

私は、「来た電車に乗る」主義者である。ま、「主義者」というほどガチガチではない。ただ、時刻表を調べたところで、本人が時計をしないので、あまりクリティカルな所を狙えないだけの話である。ということで、かなりマージンを見て出掛けたのであった。

そういや、契約時には顔写真を2枚もってこいと書いてあった。ぼくは、駅の構内にある証明写真の自動販売機の前で思案していた。「この機械は4枚で700円。たしか、案内の書類には、1枚200円で写真を撮りますと書いてあった。2枚だけなら撮ってもらった方が安上がりではある。この機械は4枚撮るのに、4回シャッターを切る。そのため、私は、この機械を使う度に、起承転結つけた4コマ作品を仕上げなければならないのではないかという強迫観念にとらわれる。今回は2枚は真面目に、残り2枚で遊ばなければならない。どうしたものか。ええい」

と、シャッとカーテンをしめて、公衆電話BOXで変身するスーパーマンのような気分(いや、クラーク・ケントの気分は私にはわからんのだが)の私であった。慎重にイスの高さを決めたのち、千円札を投入して撮影して表に出た。この出来上がりを待つ時間がなかなかさみしい。駅構内なだけに、人々が続々過ぎ去っていく。「ふ〜ん、おいらは別に写真の出来上がりを待ってるんじゃないもんねぇ」と、すぐ横の売店の商品を見てるふりをしながら「うむ、ウルトラマンは写真ができるかできないかのタイミングでカラータイマーが消えるのであるな。」と、どうでもいいことを考えている私であった。出来上がった写真はなんだかWANTEDであったがリトライはしなかった。

新宿には随分早く着いた。地図を見ながらでも、約束の時間まで小一時間はあった。いくらなんでもマージンの取り過ぎである。仕方がないので、新宿区内で臨時歩け歩け大会となった。都庁周辺は立派だけど、ちょっとはずれると、下町っぽい風景であった。「なんか真ん中だけなのな」と思った。

事務所ビルに入る。エレベータの出口が即、事務所入口といった構造だった。かっちょいいベストを着た担当の人が応対してくれた。「ああ、普段扱ってる物のレートが違う人なのだな」と思うと、なんだか気後れした。

一通り、契約書の読み合わせののち、署名・捺印することになる。

なにげに、ドキドキしている私はボールペンの筆圧が高くなってしまい。契約書の一部をビリッと小さくやぶってしまった。(あ、やべ、これで、書き直しになって、書類作成料さらに1000円取られたらどうしよう)と思いながら、そーっとペン先で破れを回復しようと寄せてみる貧乏臭い私だった。

次はハンコだ。なんだか手が震えてしまって、ウリャウリャウリャと、必要以上に朱肉をつけて、ヒネリを加えてコークスクリューパンチを打つかの勢いでハンコを押す。ちゃんと下には印鑑用の下敷きが置いてあるので、ほんとは、そんなに力をいれなくても良かったのである。かえって不鮮明になってしまった。「やばい、印が不鮮明だと契約が成立しないかもしれない。」

そんな私のどうでもいい危惧をよそに、滞りなく契約は終了し、私は新しい部屋の鍵を手に入れた。私がRPG好きならば、なにかファンファーレが鳴る所である。

ムラカミはカギを手に入れた

早速、新居のドアを開けるだけ開けにいこうかと思ったのだけど、契約で人と面と向かって話をして疲れた私は、新宿の紀伊国屋で本を仕入れて、その本を読みながら、まっすぐ寮へと帰ったのであった。

つづく

---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の世 新聞もテレビも見なくなったので世の中から孤立してるおそれあり。
当時の私 近くのコンビニで買い物したら、袋に板チョコが入っていた。最近はコンビニが義理チョコ配るのかと呆れた。

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