[*]Katakol'nikov 2

Date: Tue, 10 Aug 1999

前回までのあらすじ(嘘)

貧しい学生ラスコーリニコフは、非凡人には犯罪さえも許されるとの観念をいだき、金貸しの老婆とその妹を殺すが、予期せぬ孤絶感に脅かされ、娼婦ソーニャのキリスト教的愛に触れて自首をし、流刑地シベリアに赴く。

『罪と罰』 ドストエフスキー


「・・・イデクダサイ」「え、何?」カタコリニコフは日本語の聞き取りはあんまり得意ではない。
「ジブンデ、ヌイデクダサイ」「あ、自分で脱ぐのね。いやぁ、あんまり自慢できるような、いい身体してないんだけどなぁ」と一ボケしてみるが、ツッコミができるほどの日本語運用力が彼女にはないようだった。

(ああ、寒)と思いながら、シャツを自分で脱ぐ。よく効いた冷房と、ボケが滑った相乗効果で、体感温度は摂氏20度くらいであった。シャツを脱ぐと、それを彼女は手際よくハンガーに掛ける。(その辺りは、手慣れてるのね)

「ゼンブ、ヌイデクダサイ」と言ってるのかと思ったら、聞き間違い。
「ズボン、ヌイデクダサイ」と言っているらしかった。たしかに、彼女の衣装の露出度はかなり高いのであるが、ぼくの露出度は、この時点で既に彼女を超えている。

(あう、身ぐるみ剥がれちまうなぁ。)と思いつつ、壁の貼り紙を見ると、「お客様のお触りはお控えください」と書かれている。どうやら一方的に触られるらしい。もっとも、触らないことにはマッサージはできまい。こちらの方が着けている布が少ない。その上、一方的に触られる。かなりマゾヒスティックな状況ではある。

「ウツブセニナッテ、ネテクダサイ」
あわれパンツ一丁なぼくは、(あら、ぼく好みの低い枕だこと)と思っていると、「ソレハ、ムネノ下ニ入レテクダサイ」と言われた。そして、タオルを重ねたようなものを出されて「コレニ、オデコヲノセテクダサイ」おでこをそれに載せて、うつ伏せになってしまうと、時折、視界の端に白い太股がチラチラと通過するだけになる。

(はい、はい)と思いながら、とりあえず、おでこを載せる枕にあごを載せていると、目の前で彼女が屈みながら小声でなにか言っている。ただでさえ短い腰巻きなので、パンツは見えるし、胸はさらにムギュムギュである。「オチンチンノサービス、イラナイデスカ?」「いらない。いらない。ぼくが今凝ってるのは、おちんちんじゃなくて、肩だから、しっかりマッサージしてください。」「ワカリマシタ」

いよいよ、おでこを枕に載せて、つっぷしていると、やおら、彼女はぼくのパンツをずらしはじめた。あう、しかぁし、こういうこともあろうかと、とりあえず、新品のパンツである。心は身体測定の前日の小学生である。それはさておき、カタコリニコフ青年、貞操の危機である。いや、別に誰ぞに操を立てているわけではないのであるが。(あう、オチンチンのサービスは要らないと言ったが、お尻のサービスも丁重にお断りしないといけなかったのであろうか。)

「いやん、バンカー!おねえちゃんやめてあげて!」というのは、ぼくと同姓の村上ショージの往年のギャグのパクリ(オリジナルはお父ちゃんだった気がする)であるが、彼女がショージ君を知っているとは思えないし、これ以上、寒くなるわけにも行かないのでやらない。

彼女はぼくの首筋を軽くマッサージしはじめた。(おいおい、首のマッサージをするために、なんで俺は半ケツになってんねん!)と心で突っ込みつつ、(そんなやさしく揉んでたら、効かへんぞ!)と思う。すると、「キツクナイデスカ?」「いや、もすこし、強く揉んでくれてもいいよ」

「オ客サン、イイ体シテマスネェ。ナニカスポーツヤッテマスカ?」
(さっき、別にいい体してないってボケたのになぁ)「いや、別に」
「肩、コッテマスネェ」
(だから、凝ってるから来てるんやっちゅうねん!)

片言のボケと、無言のツッコミの中で、ぼくは、
(いつもなら、すぐ近くに女の人が居るってだけで、心臓がパクパク言うんだけれど、なんだか、妙に落ち着いてるなぁ。サービスを受けてその代価を払う、客と店員という位置関係がはっきりしているからかなぁ。なんでだろうなぁ。)
などと高尚な考証を試みるのであるが、如何せん、ぼくは、パンツ一丁で半ケツである。

こう見えても(どう見えてると思ってんねん!)意外と、小心者のぼくは、小さいケツの穴がばれないように、尻の毛まで抜かれないように、尻子玉を抜かれないように(相手は某お酒のCMの河童のおねえさんか?それにしても、尻子玉ってなんだろう。疣痔だろうか) なんとはなしに、尻に力が入るカタコリニコフ青年であった。

まだつづくらしい

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当時の本 『セックス障害者たち』バクシーシ山下(幻冬社アウトロー文庫, 600円+税)抜けないAVで知られる監督の淡々とした撮影ドキュメント。
当時の世 その帯には「ヒンシュクはカネを出してでも買え!」というコピー とともに、スキンヘッドに一糸纏わぬ姿で文庫本を持つ井上晴美。
当時の私 でも、ギャラもらってるんだろうな。と思う。坊主で晴美と言えば、寂聴尼。どこかで対談してたりなんかしないのだろうか?

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冒頭の『罪と罰』のあらすじは、三省堂 『ハイブリッド新辞林』からの引用です。