Date: Sun, 31 May 1998
小鳥のさえずりを聞きながら目覚めるというと、なんだかさわやかな朝を迎えたような気がするが、例によって前夜に大量のアルコールを摂取していたので、やや胃がもたれ気味である。
もう少しという感じで、のそのそと布団の上でまどろみながら、引き続き聞いていると、チュンチュン、ピ−チクパ−チクと、さわやかというより、ちょっとやかましい。ときに、だれが、ピーチクパーチクという表現をはじめたのかは知らないが、どう聞いてもそう鳴いているように聞こえないから、おそらくこれは擬態語であって擬声語ではないのだろう。
時計がチクタクとは言わないのと同じだと思う。
近頃、町にはカラスが多く、いい物を食べているからか黒光りしたいい色をしている。そいつが巨体でスチャスチャと飛び跳ねるさまは、なんだか重量感があってその色と合わせてちょっと怖い。朝の駅で「なんだか、カラスが多いなぁ」と思ってみたりしたが、「でもやっぱり、ヒトの方が多いよな」と思い直した。ぼくは未だカラスが「アホ〜」と鳴くのを聞いたことがない。
話は部屋のベランダに戻る。窓から外をぼんやり眺めていると、スズメが飛び交うのを頻繁に見かける。スズメはあんまり人のそばに来ないものじゃないのかなぁと思いながらベランダに出ると、別に植物を植えてないのに、枯れ草が散乱している。もしや、と上を見上げると、軒とエアコンの室外機の間で営巣中のようすであった。
ツバメが民家の軒先に巣を作るのはよく聞く話だが、なんでまた、ぼくの部屋の軒先に。雀のお宿は竹藪の中ではないのか?ま、たしかに、寮の庭には少し竹が植わってるけれど、藪というほどではない。じっと見てると、向かいのマンションの芝生に飛んでいっては枯れ草を拾って帰ってきてる。建築中だ。
そういや、なんでかマージャンというのは麻雀と書く。ぼくはイーソーの牌に書いてあるのがスズメなんだろうかと思っていた。ソーズは竹の縦割、ピンズは竹の輪切りだろうかと思っていた。じゃあワンズはどう竹と関係あるんだというツッコミは無用である。でもイーソーの鳥は豪華な羽根をしているので、スズメよりもクジャクの方が近そうだ。
ベランダに出てキョロキョロして見ると、どうやらぼくの部屋だけでなく、何軒かの室外機の上が、雀のお宿状態になっているようだ。うちの会社の独身寮の軒先はスズメの家族寮であるようだ。
しかし、弱った。これからジメジメとした梅雨のあと、暑い夏がやって来る。ぼくがエアコンのスイッチを入れて部屋を涼しくするということは、室外機が動作して振動を起こす。熱交換で熱くなる。ぼくが部屋に戻るのは概ね夜だ。夜になって、鳥なだけに目が効かなくなって休んでるのに、いきなりそこへ地震が起こるのである。さらに、熱が発生したりしたら、この新居に据えられた卵が蒸しタマゴになってしまうのではないか。
わがまま勝手ながら立ち退きを要求したいところなのだが、あいにく、ぼくが知っている雀語はチーとかポンであってピーチクパーチクではなく、先方も人語を理解するにはオウムや九官鳥ほど器用ではないらしいので、しばらく、エアコンの使用を自粛して様子を見ることにした。
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当時の本 『眼 美しく怒れ』岡本太郎、岡本敏子編(チクマ秀版社, 2000円)「本職は人間」である太郎さんは「思いっきり遊ぼう、命がけで」と言う。
当時の世 若乃花横綱昇進。小錦断髪。
当時の私 ぼくはぼく。肩書は村上健。職業は人間。