[*]On a Hikari Super Express

Date: Fri, 1 May 1998

新幹線に乗る。前の日に線路のボルトが抜かれるとかいう事件があったので心配であったが乗る。ひかり号である。当然、光の速度には遠く及ばないし、もしも、光の速度で移動したら、目的地についたら、時間の進み具合がずれてたりするかもしれない。新横浜−新大阪間では、それほどの時間のずれが生じるような距離じゃないか。

長い距離の列車旅行となると、なんでか、車内販売でビールやお酒を飲まなきゃなんないと思っている人たちがいる。それが、おっちゃんの場合は、たいがい、男の売り子さんはスルーして、女の売り子さんが来たら、「ねーちゃん、ビール」というのが決まりになっている。

かくいう私もおっちゃん初心者として、そのセリフを言ってみようかと思ってみたりもするが、私は人に声をかけるのが苦手であるので、おとなしく、デイパックにつめた本を読む。近頃忙しくて、読んでない単行本が溜まっていたので、こういう機会に消化するのがよかろう。

下を向いて本を読んでいると、隣の座席の人のジャケットの裾が、私の座席の領空侵犯をしているのが目に入る。ま、肘を張り出しているわけでなし、いたずらに抗議して紛争を起こすのもなんなので、ここは寛容にいくことにした。私は平和主義者だ。

長い距離の列車旅行となると、なんでか、靴を脱ぎ捨てて、おっきな鞄や前の座席に足を投げ出さなきゃいかんと思っている人たちがいる。家では靴を脱いで暮らすのが日常になっている日本人だからであろうか。昔、初めて汽車が走った頃、乗車口で靴を脱いでしまって、降車駅で降りようとしたら靴がない(当たり前だ)なんてことが起こったそうだ。日本人が、くつろぐには、くつぬぐ必要があるのだ。

「茶畑ばかりで、いつまで静岡やねん。」と声にならない突っ込みをしつつ、やがて名古屋を通り、京都駅にさしかかる頃には、私は2冊目の本の終盤にさしかかっていた。1冊目の本の記憶はすでに薄れている。ジャケットが領空侵犯をしていたとなりのおばちゃんが言う「席、かわりましょうか?」なんとなく、「窓際の席をゆずって差し上げましてよ」と言ってそうなニュアンスであるが、要はおばちゃんが京都で降りるので通路側に行きたいだけである。

新大阪駅に着く。新幹線の駅は自動改札機が導入されている。まだ導入後間もないのと、JRの切符はいろんなのがあるから混乱するからか、大勢の駅員さんが自動改札のそばで説明やフォローに回っていて、なんのための自動改札か分からない。「乗車券と特急券を重ねて改札機に入れてください」「乗車券だけ出ます。切符をお取りください」と例によって輪唱が起こるので目眩がする。

遅い昼飯を食ったあと、大阪の旭屋と紀伊国屋に行って本を買う。お店に入って料金を払う時のレジ係の「千円おあずかりいたします。」の微妙なイントネーションの違いに、「う〜ん、大阪やねぇ」と思う。

---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の本 『解剖学個人授業』養老孟司・南伸坊(新潮社,1200円)『生物学…』(岡田節人先生)、『免疫学…』(多田富雄先生)に続くシンボーさんの生徒シリーズ3部作。養老先生曰く、「私の講義なんか本気で聞いたら、出世の妨げですよ。ともあれ学生にはそう言い渡してある。あとは自分で判断すればいいのである。この本もじつは同じことである。」おもしろい。
当時の世 大阪梅田でインド系の人の怪しげなグループを見かけた。もしや、ニュースで言ってた密入国者か?
当時の私 などという見方は、日本人的ガイジン感で、いやらしいので反省。

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