Date: Mon, 2 Mar 1998
私は被抑圧者、デイパッカーである。
電車に乗ってると、「デイパック等は、他のお客様のご迷惑にならないよう…」と例によって、そんなこと電車の会社に説教されることじゃないのにと思うセリフを車掌が言う。
「フッフッフ。その攻撃はもう見切った。俺はちゃんと前に抱えてご乗車してるぜ。」
「そのデイパック等の「等」には、ボストンバッグとかメッセンジャーバッグとかスポーツバッグや、アタッシュケースとかブリーフケースや、ヴィトンやグッチやプラダ等も含まれてんのか?べらぼうめ。」
と思っていると、
「…前に下ろすか、網棚の上に載せて、ご乗車下さいますよう、お願いいたします。」
「何ぃ〜。こないだは「前に抱えて」って言ってたじゃねぇか!」
「だいたいなぁ、前に下ろしたって邪魔なもんは邪魔なんだよ。」
なにも悪いことをしてるつもりはないのに、青いデイパックを前に抱えてドラえもん状態の私は、何だか気恥ずかしく、うしろめたかった。
何も私が前に抱えるのは指導を受けてるからではなく、後ろに目がついてないし、デイパックに神経は通ってないから、他人に迷惑をかけたり、知らない間に中のものが落ちたり盗まれたりするのが心配で前に抱えるだけなのだ。つまり、おんぶ派ではなく、だっこ派なのだ。別におんぶ派のママさんに愛情が足らないと言ってるわけではないことを書き加えておく。
ところで、おんぶおばけと、子泣きじじいは親戚だろうか。
「車内での携帯電話のご使用は…」というアナウンスをしても、大声で電話している人を抗議の目線で睨みつけている人の背中にデイパックがあるのを見かけると、「みんな自分本位だよなぁ」と思う。
車掌さんも仕事だから台本を読んでるつもりなのか。「デーバッグ」だか「デイパック」だか「ディバック」だか良く分からん発音をする。はて?ほんとはどれだろう。
大阪のおばちゃんは、油性マーカーはなんでも「マジック」だし、小さいポリ容器に入っている乳酸菌飲料は「ヤクルト」である。絆創膏は「サビオ」だし、貼り付けるタイプの消炎鎮痛剤はなんでも「サロンパス」である。そんな人につかまると、どんなものでも、背負えば「リュックサック」になってしまう。
たしかに、ふつうに背負い袋のことなら「リュックサック」だろう。
旅行者や登山家がしてるような、フレームのしっかりしたのはバックパックだろう。
ナップザックはどちらかというと軽装のリュックという感じか。ちょっと調べてみると、狭義には背負いひもを引くと口が締まる構造のものを特に言うらしい。
だとすると、軽装のリュックでそういう構造でないものがデイパックか?
夜中に使ってもデイパックか?
どうやら、日帰り用の荷物が入るくらいの大きさのものらしい。つまり、お泊まり用ではない。
袋だからパックなのか、鞄だからバッグなのか、背中にあるからバックなのか。その辺りを曖昧に使う人が多い。またしてもあいまいな日本のわたしである。
乗車時間の間に何度目かの「Dバッグ等は…」の放送が聞こえてくる。苛立ちを抑えるために、ドラえもん状態のぼくは、おなかの4次元ポケットから文庫本を取り出し、違う世界へ逃避するのである。
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当時の本 『お言葉ですが… 「それはさておき」の巻』高島俊男(文藝春秋,
1571円)前作に続いて日本語の乱れにするどいツッコミ。あ、俺もこの間違いよくやってる。
当時の世 長野五輪終わった。
当時の私 結局、ちっとも見なかった。