(む}Remote complex

Date: Mon, 9 Sep 2002

蛍光灯から床の近くまで、ユラユラとヒモが垂れている場合がある。寝たままでも、明かりを消せるようにという、誰かの発明である。特に、特許が申請されているという話は聞いたことない。おもっきり有線な上に、めちゃめちゃ機構的接続であるが、リモコンである。リモコンとは、ご存知の方も多いと思われるが、リモートコントロールつまり、遠隔操作であって、あえて無線である必要はない。ホテルみたく、ベッドサイドに、コンソールパネルがある部屋の方もいるのだろうが、、、あいにく、私の寝床は蛍光灯の真下からは、ずれた位置にあるので、ヒモを長くしたところで届かないので役立たずである。

蛍光灯の真下からずれた私の寝床の枕元には、3つのリモコンがある。ビデオとDVDとエアコンのである。

過去のネタを読んだことのある方なら、ご存じだと思われるが、私の部屋にはテレビがない。アパートの集合アンテナにはパラボラも付いているが、NHKには地上波の受信料だけ払っている。事実、私には衛星放送を受信する設備がない。ほぼ毎日NHKを見ないのに受信料を払っているのは、法律のせいと言うより、私の人徳だと思われる。

私の部屋はあまり広くない。あまり広くない上に、ビデオデッキは寝床から手の届くところにある。近頃、ソフトはDVDで入手するケースが増えたので、あんまり活躍の場がないビデオなのだが、たまに、テレビ番組の予約をしてみたりする。だが、しかし、ビデオ本体には再生や巻き戻しのボタンはあるのに、予約のメニューはどうやらリモコンにしかないのである。かくして私は約30cmの距離からリモコンを使う羽目に陥るのである。

いざ予約しようとしたら、空いているテープがないではないか。私は0.3m先のビデオデッキに踊らされて数百m先のコンビニまでテープを買いに行くのであった。そういえば、何も入ってないテープを「生テープ」などと呼ぶことがあるが、賞味期限はあるのだろうか?などと、どうでもいいことを気にしながら店に向かうと、肝心のテープを買わずに、ビールを買って、帰ってきたりする。ああ、こんなことならHDD内蔵のデッキを買っておくのだったと思うがリモコンに踊らされて、電器屋に出掛けて、それだけ出費するのもなんだ。

そう、近頃私は、映像ソフトをDVDで入手することがほとんどである。なにがメリットかと考えると、頭出しの速さだろうか。ビデオだと延々早送りするところを、あっさり見たい場面に飛べる。媒体がビデオより小さいので、保管にとる場所も少なくて済む。だが、しかし、チャプターサーチするために、やはりリモコンが必要なのである。私の枕元にプレイヤーはあると言うのに、10cmの距離からリモコンを使う羽目に陥るのである。

ところがプレイヤーは反応しない。いや、3cmくらいに近づけると、辛うじて反応してくれる。だが、それではリモコンとは言えない。なにせ、本体に手が届くのである。かゆい所には手が届かないように出来ているのか。どうやらリモコンの電池が切れているらしい。私は、またしても、リモコンに踊らされて、数百m先のコンビニに電池を買いに行く。なんでか知らないが、世間にはボタン型リチウム電池はやたらとある。果して、私のリモコンに入れられるのはどれだったか。

私のDVDのリモコンに入っている電池は、たしか、CR2025という型だったと思われる。だが、お店で見るそのパッケージには「電卓・電子手帳などに」とある。どこにも「リモコン用」とは書かれていない。私はこの頃、自分のワーキングメモリーというか、短期の一時記憶に自信がない。「もしや、これは、私のリモコンには使えないのではないか?」と、疑心暗鬼になるのである。

辛うじて、正解だったようである。反応のよくなったリモコンは、私の見たいシーンより2、3歩先のシーンへと私をいざなう。行き過ぎるので巻き戻しをする。いや、ビデオじゃないのだから巻いてるわけじゃない。DVDはいきなり逆回転を始めるわけではない。たしかに、私は幼い頃、テレビのチャンネルを回していた世代だが。ついでにいうなら、電話のダイヤルを回していた人でもある。だが、今でも電化製品がおかしくなるとたたくと治ると思っている人は多い。親が間違った知識を伝えたのだろうか。いや、ある種の接触不良はたしかに刺激を与えたことにより、復帰することはある。しかし、私が思うに、叩いたことにより、状況が悪化しているケースもたくさんあるに違いないと思うのである。ただ、ええかっこしいな大人たちが、叩いて壊したことを不問にして、叩いたら治った場合を吹聴したに違いない。と推測している。

一仕事を終えた私は、少々汗ばむのでエアコンのスイッチを入れようとする。

だが、入らない。エアコンは概して天井の近くに設置されているので、リモコンが利かないと、手も足もでない。本体にはボタンなどないのである。あったとしても、私の背は低いのでとてもじゃないが天井の近くまで届かない。辛うじて、寝床から起き上がってウルトラマンに変身するためにベータカプセルをかかげるハヤタ隊員のように(いや、ティガに変身するのにスパークレンスをかざすダイゴ隊員でも良いし、コスモスになるのに、コスモプラックを持つムサシ隊員でも良いのだが)、立ち上がってリモコンをエアコンの方向にかかげて押すとなんとか涼風が吹き出てきた

リモコンの裏面を見ると、「エアコンに近づかないと受信しない場合や、リモコンが正しく動作しない場合には、電池を交換し、ACLボタンを押してください」と書いてあった。大丈夫、単3電池なら手元に在庫があるはずだ。リモコンのフタを開けると、そこにあるのは単4電池であった。どうして小型化する必要もないものなのに単4なのか。私の意識では単3より小さいのはイレギュラーなのだ。ひょっとすると単4はいつのまにかレギュラーの地位を獲得したのか。

私はリモコンに操作されて単4電池を買いに行くことを、かたくなに拒否して、ウルトラマンに変身するわけでもないのに、立ち上がってリモコンをかかげて、「おやすみタイマー」をセットし、ついでに、長いヒモが繋がっていない蛍光灯を消して、床につくのであった。

---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の本 『よくわからないねじ』宮沢章夫(新潮文庫,本体476円+税)私もどうやら、そこかしこに、なんでこんなものを取ってあるのかよくわからなくなることがある。たとえば、私は、この本でおもしろいと思ったページの隅を折っているが、果たして再読するのか?というとよくわからない。
当時の世 夜になくセミはさすがに減った模様。マクドナルドのMサイズっていつからRになったの?
当時の私 疲れているのはたぶん、たしかである。なんで自信がないのかはま、自分のこともひとごとのように言う癖であろう。

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