(む}A strange manicurist

Date: Mon, 05 Nov 2001

町を歩く。私は生物であり、動物であり、人間であるので、否応なく町を歩く。「うち、村だから」とか「郡だから」と言われても困る。今の人が住んでるところは、町と言ってしまっていいと思う。すくなくとも、私のこんなメルマガを読んでる人のいるところは町だ。世はブロードバンドだ。もっとも私は、相変わらずフレッツISDNのナローバンドだ。

町を歩いていると、前を歩いている女の人のスカートの後ろのジッパーが下がりかかっている、っていうか半開きだ。男なら、死にかかった死語かもしれないけれど「社会の窓」という単語がないでもないが、女性に対して私はどうすればよいのだ。私は真っ昼間から途方に暮れる。私のようなやつに指摘されるのも、彼女のプライドにひどく傷を付けるかもしれない。それに、ここで指摘するってことは、私が彼女のお尻に注目していたということになってしまうかもしれないわけで、、、「いや、別にお尻見てたわけじゃないですよ」なんて言い訳を考えなきゃならなくなる。

なんて迷ってるうちに、すぐ横を歩いていたおばちゃんが、コソコソっと寄って行って、耳打ちして知らせてくれた。普段はオバタリアン(瀕死語)と言われてるかもしれないけれど、こういう場面で動きが取れるのはおばちゃんがベターだよな。なんて思う。

お尻ばかり見てても仕方がないので(って、お尻ばかり見てるわけじゃないってばさ)、目線を動かしてみる。髪と髭と爪は、だまっていても伸びてくる。皮膚はなんとはなしに、垢だかフケだかになって落ちるのかもしれないが、髪や髭や爪は、適当な長さでプツプツ切れてくれるわけでなし。ボサボサ頭に不精髭な私も、爪は時折切っている。のだけど、ここ2週間ほど、「爪が長いとキーボード打ちにくいのだろうかキャンペーン」を展開していたのであった。

で、どうなのだ。と問われると、一般的な回答にはならないとは思われるのだけど、上の段の、ファンクションキーやESCキーなんかの出番は知れてるわけで、余程爪が長くないと、キーボードのストロークのうち爪がつっかえて押せないってことは、なさそうである。むしろ、それよりも、zxcvbnm,./あたりのホームポジションの一段下を打つとき、爪先打ちになってしまいそうではある。変換、無変換、スペースキー辺りの親指の仕事にも支障があるか?とも思ったが、指の横っ腹でタッチするので、さほど影響はないようだ。はっ!?もしや、ホームポジション維持でなくて手全体を動かして、下段を打つのだろうか。

さて、マニキュアという言葉は、そもそも「手指のケア」というような語源であるそうだ。ん?だとすると、ヘアマニキュアって変な単語だなぁ。マニュキュアになりがちなのは、シュミレーションと同じであろう。別に爪にエナメル塗らなくたって、手や指に気を使うのはマニキュアなんだなぁ。手の手当て。

この頃は、コンビニコスメだなんて言って、化粧品の類もコンビニで売られているが、だからと言って、私が買うのはいかがなものかである。あえて買うなら、パーティーグッズを売ってるところで仮装セットの辺りで揃えるのが無難なのではなかろうか。が、以前、その手を使ったところ、レジの女の子にクスクスっと笑われたのは私である。

今回は職場のSH嬢のご好意で100円ショップものなセットを頂戴した。簡単つけ爪セット、シールのようにはがせる簡易的なゴールドイエローのネイルカラー、赤のネイルエナメル、マニキュア乾燥スプレー、それと、除光液(リムーバー)である。

まずは無難に、両面テープで貼るだけのつけ爪を試してみる。100円ものだからか、作りが大雑把なのか、プラスチックの成形上できるランナーの残りのバリがある。このぐらいの長さがかわいいのだろうか?しかし、少々長めなので、つけ爪をつけたあと、それをつめ切りや、やすりで形を整えることになる。生爪のケラチンとは違う、合成樹脂を削る匂いは、なんだかプラモみたいで男の子チックだ。

しかし、なんだ、コンタクトレンズだって、ベースカーブっていう眼球の曲率の数字があるが、つけ爪も自前の爪のカーブに合わないと、なんか締めつけられたり、引っ張られたりして、指の健康によろしくなさげである。皮膚科の処方箋がいるのではないか?なんちて。ちゃんとネイルサロンとやらに行くと、ちゃんとしてるのだろうか。マニキュリストだか、ネイリストだか、ネイラーな人ってなにか資格があるのでしょうか。

コンタクトと言えば、私はワンデイなディスポタイプのコンタクトを使用している。で、ハード派な人は怖がるというつまんで取る方法でレンズを外すのだが、親指と人指し指の爪が長いとこれが怖くてやれない。そうすると、爪の長い人は、指の横を使うか、あるいは、まぶたに引っかけて外す方法を採用してるのではなかろうかと想像するのである。

次に、簡易型のネイルカラーを使ってみる。乾燥してしまえば、うすいシールが貼ってあるような感じなのでペリッとはがせる。逆にはがしやすい分、はがれやすい。端っこを引っかけてしまうと、いかにもシール然とめくれてくるのが難儀である。あと、なんとなく塗るときの筆のムラの線が残りやすい気がした。

さてさて、いよいよ、ネイルエナメルである。まずは一筆だけ色をおいてみて、乾かしたあと、すぐリムーバーで落としてみる。「うむ、落ちる」あたりまえである。だが、「落としてもなんとなく赤っぽく残ったらどうしよう」と心配してたのである。リムーバの成分を見てみるとアセトンと書いてある。ほう、女の人は日々、指に溶剤を塗り付けているのか。

左手の人指し指の爪一枚塗ってみる。手を宙に浮かした状態ではなんだか、手がプルプル震えてうまくいかない。どうしたものか。なにか作業台のようなものが必要なのだろうか。と思ったが、なんのことはないテーブルに両手を載せてやればよいのではないか。でも、手を両方、テーブルに載せて顔を近づけて作業してしまうと、溶剤の匂いがもろに鼻から入ってラリってしまうのではないか?そう、眼鏡派な女性はアイメイクはどうやってるのか、手探りなのか、勘なのか。気になってしまう。

しかし、手に限っても、問題はまだある。爪の横の境界付近や、根元の甘皮近傍は、みなさん、どううまく塗っているのであろうか。爪にだけ乗せたいのに、皮膚まで塗ってしまいそうではないか。また、爪の先の方も、なんだか表面張力の影響か、筆が爪から離れるときに、先端部分にマニキュアがダマになりがちなんである。さっきの簡易型のよりはましだけど、やはり筆のラインが残りがちなのも気になる。うまく塗れるとうれしいというのはほんとうかもしれないなぁ。なんて思う。

5本の指全部に塗ってみる。うう、右手を塗るにはやはり左手で筆を持たねばならんのだな。不器用な上に左手から始めたものだから、すでに集中力を欠いている。んん、もしかすると利き腕の指から始めるのが正解かもしれん。と思う。

全部塗り終わって見る。なんだか自分の手なのにドキドキする。でも、ぼくの手は小さくて指が短いので、いまいちかっこよくないや。その手でキーボードを打ってみる。視界の端で赤い爪が踊っている。そのまま食事をしてみる。なんだか赤は派手かったか。箸の端でキラキラしてる。枝豆を食べてみる。素手でつかんで口許で皮から豆を出す時に、なんだか自分の手先が気になる。

一通り楽しんだので、除光液で落とすことにする。なんだか大量にティッシュや綿棒を消費してしまう。大変であるなぁ。爪の根元や横は、毛細管現象で墨入れしたみたくなってるので取りづらい。ひとしきり拭き取ったので、普通にもどる。「やっぱ、ナチュラルがニュートラルっしょ」とひとりごちる。で、ふつうの作業をしていると、視界の端でキラリと光る。はがれずにしぶとく残っていたラメが光っている。なんだか照れた。

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当時の本 『西原理恵子の人生一年生』(小学館,1000円+税)大「小学館」からリエゾー先生が個人雑誌創刊。しかし、せんせが一年生だと、私は、ようちえんですな。
当時の世 世間のことがよくわかってない今日この頃です。ただ、近所のカラスの傍若無人度が増してる気がします。
当時の私 自分のこともよくわからない今日この頃です。多忙です。