(む}First contact

Date: Mon, 07 May 2001

私は中学生の時に、見ず知らずの人にいきなり、「君、眼鏡かけても、あんまし、賢そうに見えへんなぁ」と言われたことがある。それがトラウマになったのかどうかは知らないが、目があまり良くないのに、普段、眼鏡なしで過ごしている。自動車免許には、条件等「眼鏡等」となっているが、幸い、歩行者免許なるものは存在しないので、日々、歩いている。

日々の暮らしのなかで、小悟を得たり、迷いが晴れたりすることを、「目から鱗が落ちる」などと言うけれども、なにやら鱗状のものを目に着けると、世界が変わって見えるという。実は世界が変わったのでなくて、自分が変わったのであるが、人はワガママだから「世界が変わった」などと言うのだ。そう、「世界」というのは、本人の「世界観」に他ならない。

駅前でもらったチラシを手に、「なんだ、ティッシュついてないじゃん」と思いつつ、ふと、「コンタクト」というやつを買ってみようかと思い立ったのである。しかし、「健康保険証をご持参ください。」とあった。自慢にはならないが、私は入社以来、医者にかかっていないので、保険証は、まっさらなままなのである。もっとも「医者にかかってない≠健康である」なのは言うまでもない。毎月、健康保険料が給料から天引きされてるので、使わないともったいないじゃないかと言われる。それは多分、有給休暇を余らせるともったいないじゃないかと言う理論と同じであろう。

さて、ろくに使わない保険証をついに自宅から発掘した私は、チラシ片手にコンタクト屋さんに赴いた。「あ、あの、初めてなんですけど」と、申込み書に住所氏名生年月日を書く。「じゃ、隣の眼科で検査受けてください。」「はい」と、一旦、扉を出て隣の眼科に入るのだけど、お店とは中で繋がってるらしく、受付に同じ人がいたりして、なんかコントのようであった。「コ、コ、コ(って、ワシはニワトリかい!いや、ワシはイーグルやね。などと、心の中でノリツッコミしつつ)、コンタクト作りたいんですけど。」

待合室は混雑していた。そのほとんどが、コンタクトを作るために来ている患者(っていうか、客)であった。頭の中で、「こんなに毎日、新規の客が来て、使い捨てタイプなんかだと、2、3か月に1回は次のを買いにくるリピーターになるんだったら、いいですなぁ」と計算してみる。

待合室に、雑誌なんかも置いてあるのだけど、どうも女性誌が主なようだ。男向けかもしれんが、私がメンズノンノを読むのもなんかキャラが違う気がする。してみると、ラーメン屋や床屋の雑誌の品ぞろえは、男の子仕様だなぁ。などと思いつつ、私はデイパックから先に本屋で購入した本をおもむろに取り出して読みはじめた。

待ち時間が長いので、どんどん読み進む。およそ100ページばかり読み進んだ辺りで、ふと、うつむいて本を読んでいる私の視界の端を、受付の女の人が通り過ぎる。何!その足元は、はたして、白衣の下にルーズソックスと厚底スニーカーであった。そう来たか。しかし、それは、コギャルが制服の下に網タイツ履くくらいに反則技ではないのか?などと、そういうところはコンタクトしなくたってしっかり見ている私なのだ。困ったちゃんだ。

「村上さ〜ん、どうぞ〜」やっと順番が回ってきた。「今回初めてということですけど、どういうタイプがご希望ですか?」「メンテが面倒だから、一日使い捨てのタイプかなぁ」

私の中の計算では、私はアレルギー性結膜炎持ちであるから、おそらく、連続装用タイプは不向きである。だとすると、一週間タイプでは、一週間つけっぱなしでナンボなもの(一日で外してしまうと、一週間連続装用タイプと言えども再利用不可なので、一ヵ月分を一週間で使い尽くしてしまう可能性がある)だから×。終日装用の2週間タイプなら取り外して、浸け置き洗浄で済むタイプもあるが、怪獣ズボラとしては、それは避けたい。それに、「毎日、新品」ってのが響きがよいではないか。

で、目のデータを取るとかで、2、3の装置にアゴを乗せて、デコをつけた。謎の絵が遠くなったり近くなったり、「正面見て目を大きく開けてください」(おう、どうせ俺の目は小さいわい。よく怒ってるとか、眠そうとか言われるもんね。)などと思ってると、機械からシュコッとなにやら空気が吹き出されて目に浴びせかけられた。視力は、昨年測った時は、右左、0.5/0.3だったのが、0.4/0.1になっていた。「んん、やっぱり眼鏡やコンタクト必要ですねぇ。」

一通り診察受けて、「結膜炎が少しありますねぇ。花粉症?今年はもう、落ち着きましたか?でも、コンタクトつけるのは10時間くらいを目処に、長くても半日くらいで外すようにしてくださいね。」やはり連続装用は無理な私であった。

「じゃぁ、ちょっと着けて見ましょうね。少し下、見てください」と言われてうつむく私。「いや、顔は正面向いて、目だけ、下、見てください。ひざの辺り。」どうやらマジボケな私である。私の眼球に、看護婦さんの指が迫ってくる。頭の中では、ジョーズかなんかのBGMがなっている。迫り来る指。「ひざの辺り見ててくださいね」と言われても、迫り来る指が気になって仕方がない。つい、まばたきしたら、うまく入らなかったようだ。

なんとか入って、すこし休憩して視力検査。両目とも1.2くらい見えている。もう一度、診察。どうも目玉にレンズがくっつき過ぎてるらしいので、別のタイプのレンズに付け替えてみる。再度、診察。今度は良好だそうだ。あと、自分でつけるやり方を指導してもらう。「あの、これ薄いけど、表裏あるんですか?」「横からみて、端が、お椀みたいになってたら表。ちょっと広がった感じになってたら裏です。裏のまんま入れちゃうと違和感あるから分かりますよ」入れて初めて分かっても仕方がなかろう。レンズを少し曲げるように持ってみると、入れる前でもよく分かるらしい。しかし、レンズを入れんと見えない人に、その違いが分かるのだろうか。(とりあえず、私は分かった。でも装着二日目は、入れてみて初めて分かった。ま、体に覚えさせたってことで良しとしよう。)

診察料1490円也を支払って、隣のレンズ屋さんに移動。処方箋を渡す。「度数の都合で、お取り寄せになります。」チラシには『レンズ即日渡し※ただし特注品は除きます。』とあった。「片方が2980円で、合わせて、5960円になります。」チラシには『一箱ズバリ、2230円より』とあった。目の悪い私には「より」が読めなかったらしい。「チラシ持って来たら安くなるんじゃないの?」「そうでした。片方が2900円で5800円になります」効果は両目で160円であった。帰りの電車賃である。

レンズをした目で街に出る。さほど、見えるようになったという気がしない。と思っていると、ものの輪郭が迫ってくる。看板の文字が「読んでくれ」と訴えてくる。木にいっぱい葉がついていることに改めて気付く。街を行く女の子がカワイイので、いちいち惚れそうになる。

ああ、ぼくは視力の問題よりも先に、まず、視線をそちらにやっていなかったのだ。と改めて気付いた。見えないのでなくて、見てなかったのであった。

お買い上げ
診察料 1490円
J&J ワンデーアキュビュー 5800円
合計 7290円

---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の本 『よみもの 無目的』赤瀬川原平(光文社,1500円+税)毎回、迷宮入りの現場写真。路上観察。
当時の世 GW中、ユニバーサルスタジオジャパン入場規制。金正日総書記の長男とみられる人は、東京ディズニーランドに行きたかったそうだ。
当時の私 眠りが浅い。昼飯にカレーうどんを食べたら、汗だくになった。俺は何をしてるのだ。と思った。『iP! 6月号』の「Webの細道」というコラムで紹介してもらいました。

Johnson&Johnsonの世話になるのは、綿棒以来である。

というわけで、一か月ほど装用してみて、「なんか乗っかってる」という違和感は消えない。たしかに、はっきり見えるが、やはり、ぼくは「見えない」の前に「見てない」なのを痛感する。で、追加に2か月分購入したら、片目一箱2900円×4箱で、一万ちょい払うことになって、「ん?それだけのメリットあるか?」と思い始める。肩凝り改善には、あんまり視力は寄与してなかったようだ。私の場合。(2001/06/06)

そろそろ、導入から3ヶ月くらい経つので、追加分買いに行って、ついでに検診ってやつを受けてみるかな。と思ったら、窓口で「そろそろ処方箋の有効期限が切れますので、次回購入時は、眼科医での診察受けてくださいね。」と言われた。へぇ、有効期限があるんだ。で、さっきまで検診受けるつもりだった私は、「追加分、3セットもらえます?」と言った「3か月分でよろしいですか。」「はい。」そうか。処方箋を元にモノをくれるのだから、実はコンタクト屋さんって目限定の薬局なのか。(2001/08/04)

で、なにやら処方箋の有効期限があるとかで、ニューバージョンを入手したのだけど、どことなく、レンズのお碗形状がしっかりした気がする。あと、識別するためだろうか、うっすら青に着色されている。だからと言って、カラーコンタクトみたく私の目が青くなるわけではない。でも、きれいな青白い白目からは遠ざかって久しい、常に充血気味な私の目だ。そういや、旧ヴァージョンのレンズも、製品としての有効期限は2006年だかまであった気がするが、それらは廃却されちゃったのだろうか。(2001/11/13)