(む}Green Debut

Date: Tue, 09 Jan 2001

さて、新世紀も明けて、もうそろそろ10日くらい経つわけです。なんていう書き出しは、全国で100万人くらいは使ってそうだな。「"新世紀"と改めて書くのは好きではない」って書き出しも、少なく見積もっても(どうやって見積もるのだ?)10万人は下るまい。

冷静に考えれば、単に年が明けただけなんですけどね。でも、昨年までの数年間の殺伐とした事件が、「世紀末気分」の影響だったのならば、新世紀ってことで、そんな事件は減って欲しいもんです。被害にあった方には、どうもコメントしようがないのだけど。やり場を失った終末気分は、かわりに週末で、じわじわ空気抜いてください。うまく気を抜けないと、邪気が煮詰まるだろうから。

さて、前世紀の私の重大事件をば、と書きかけて、「前世紀」ってなんかずいぶんと昔のような語感がある。でも「旧世紀」ではもっと前な気もする。「昨世紀」とか「去世紀」とか「先世紀」なんて熟語はないと思う。困った。いや困らなくてもよい。単に「去年」と言えばいいのだ。どうせ、百歳生きてるわけではない私が、偉そうに「前の世紀」を総括しようがないし、昨日の晩飯がなんだったかも怪しい記憶力である。それはヤバくないか?若年性痴呆症?大丈夫。昨晩は何も食べてないのだから、私の記憶は確かである。

去年の重大ニュース。はじめは、フレッツISDNの導入によって、ネット生活が身近になったことになる予定だった(NTTさん、さらに値下げ検討をお願いします。電話でお話を滅多にしない私は、ここ2か月、ほぼ基本料しか払っていないのだけど、それでも8千円かかるのです。)のだけど、年の瀬も押し迫った頃に、事件は起きたのである。

齢三十にして、グリーン車デビューである。

実家に帰省するのに、「自由席の喧騒はやだなぁ」と思った私は、新横浜駅の自動券売機で指定席を買おうとしたのだった。「もう、満席かもしれんなぁ。でも、あるかもしれんし、あっても500円くらいだったか高いだけやしな。」そう、最近は(っていつからだ?)、指定席も自販機で買えるのだ。

なかなか認めてくれる人が少ないのだが、自称人見知りする私は、「みどりの窓口」とかいうところへ行くのが苦手なのである。

まぁ、緑の窓口ゆうても、郵便局とか三和銀行の窓口やないねんけどね。兵庫銀行は、一時期、みどり銀行って名前になってて、「なんや君とこは三和の支店かい!」てツッコんでたんやけど、なんか今回、帰省したら、みなと銀行って、また名前替わってたなぁ。

それにしても、なんで「みどり」なんだろう。

などと、周りに聞こえないように無言のノリツッコミをしても、苦手なものは、苦手なわけで、勇気を奮って行ったとしても、係員の人が
 「自由席でいいですか。」
って言おうものなら、
 「は、はぃ。自由席で、、、喫煙席でも禁煙席でもいいです」
とシュンとなってしまう。なお、自由席は自由なのだから車両の指定はないので、勝手に禁煙車両に乗ればいいのである。

と、長くて短い妄想を経て、ふと販売機の画面を見れば、グリーン車に空席があると表示されている。んん、しばし躊躇。しかし、時は帰省ラッシュ。私の後ろには、人見知りで窓口に行けない人々(果たして、そうか?)が順番待ちで並んでいる。「ええい、ままよ」と、ダイエット中であるが、太っ腹な私はグリーン車の券を手に入れたのである。普通の指定券なら500円高いくらいだろうと思ってたのに、なんか6、7千円高いぞ。と思ってもあとの祭りである。

自由席車両の入口のホームで順番取りの行列になってる人を尻目に、「今日は、ぼくはグリーンだものねぇ」と余裕でベンチで新幹線を待つ。ホームに、ごついビデオカメラを持った男性と、マイクと脚立を持った女性の二人組が歩いている。腕に「TVK」と書かれた腕章をしている。きっとテレビの人だ。へぇ、レポーターさんはカメラさんが載っかる脚立も運ばないといけないのだなぁ。ごくろうさま。当然、帰省ラッシュの絵を撮りに来てるお二人は自由席の所へ向かう。「ふふふ、おいらはグリーンだものねぇ。なんかブルジョア気分」ってあたりの発想が貧乏くさい。新幹線が入ってきた。

「なんじゃ、これは」床にカーペットが敷かれているではないか。シートもゆったりしているし、なんか曲面で構成されてて座り心地がいい。前の座席の下についてるフットレストもなんだか2段に折れてて豪華だ。下足文化なジャパニーズの私としては、なんだか恐縮してしまう。となりの席のおじさんは、おもむろに靴を脱ぐと、鞄からMyスリッパを取り出した。「はっ!もしや、上履き持参が必須なのか?」そんなわけはない。

「んん、なんかこないだ航空機のエコノミークラス症候群とかいう名で、長時間、狭苦しいシートに座って血行不良になったりとかで体調くずすとかいう話出てたなぁ。思えば、貧乏揺すりというのは、血行の改善を促す、身体の防衛機構なのかもしれんなぁ。ふむふむ。でも、グリーン車に乗って貧乏揺すりするのものなんだなぁ。」

などと思いつつ、お隣さんとはすっかり別の、ゆったりした席に、「おお、これだと、「はて?この真ん中の肘かけは、私のものだろうか。となりの人のものだろうか?」などと悩まなくてもよいではないか。」と変なところで感心する。シートの脇には、なにやらイヤホン端子のようなものがあるが、飛行機みたくイヤホンが配られてるわけではないようだ。なんだかBSアンテナ端子はあるけど、使ってない私の部屋のようだ。「このイヤホン端子料は料金の中に入るんですか?BSアンテナ端子料は家賃の中に入ってるのだろうか?」前のかごには、「ご自由にお持ちください」と「WEDGE」とかいうビジネス雑誌がささってた。前の乗客が追加していったのか、ぼくの席の前には「AERA」と「SPA!」もささっていた。普通の電車の網棚の上のマンガ雑誌や新聞のリサイクル(リユース?)のグリーン車版かしら?

検札に来たのは、なにやら女性の客室乗務員である。はて?新幹線の場合どういう呼び名なんだろう。もしかして、たまたま車掌が女性なんだろうか。飛行機だと、いつの頃からか、スチュワーデスというよりキャビンアテンダントとか言うのが公式になってるけど、世の中の多くは未だに、スッチーと呼んでるわな。それにしても新幹線の客室乗務員の女性ずいぶん早歩きな気がした。通りすぎる時に風が起こってた(たまたま、私が乗った車両がそうだったのかもしれない)。あれでは用があって呼び止めようとしたら、もう次の車両にまでたどり着いてしまうのではないか(それはない)ま、用事はないのだが、どうも「ああ、いそがし、いそがし」とか、「呼び止めないでくださる?」と言われているようでなんだ。

自由席ではないから、立ち乗り客が居ないので、ワゴンサービスもしっかり通る。でも、「ねぇちゃん、ビール」って言うおっちゃん客は、グリーン車に乗せちゃいかんような気がする。そういうおっちゃんに限って普段、「女じゃ分からん、男の係呼んでくれ」なんて平気で言うんだ。でも、そういう甘えたおっちゃんの言い分を、いなしてかわすような技が、女性には要求されるのだろうか?謎だ。ま、相手が女の人だってだけで、なんだか恐縮しておとなしくなるぼくが、弱いだけなのかもしれん(ある意味、私こそ、おっちゃんと、女の人を共に差別している。なお、おばはんについては別枠の用意がございます)。

新大阪で降りた私は、ほんとは貧乏くさい小金持ちなんで、乗車した時に配られたおしぼりを使わずに大事にバッグにしまっていた。
 「んん、おしぼりだけで、何千円も余計な値段払ったのか?ワシは。いや、結構ゆったりと帰ったしなぁ。でも、やっぱ、なんか割高だった気がしないでもない。」
太っ腹な振りな私はタクシーで気前よく帰ろうかと思ったのだけど、結局、JRと阪急を乗り継いで帰ったのであった。
大事にしまったおしぼりは、50過ぎても未だグリーンデビューしてない両親に、「グリーン車乗ったら、おしぼり配られるねんで」というネタ振りに使ったのは言うまでもない。

---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の本 『病気じゃないよ、フツーだよ 神経科に行ってみよー』藤臣柊子(二見書房、1200円+税)心を病んでる時に、薬を飲んで暮すのは、自称ふつうの人が、酒や煙草を飲んで暮すのより、場合によってはタチがよいと思う。
当時の世 東京地方初雪。
当時の私 実家に軟禁されてしこたま飲んで食ってしてたら3kg太っ腹。

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