[*]Trust me?

Date: Mon, 1 Nov 1999

自分で言ってはなんなんだけど、ぼくを信用してはいけない。

そもそも、ぼく自身が、「ぼく」として、まとまりがあるか、いまいち自信がない。すくなくとも、しばしば脳内分裂談義を催すぼくは、他の人に話す前に、ぼくの中の何人かにご意見をうかがう。

なんていう言い方をすると、本格的な分裂をはじめたかと思われるかもしれないけれど、概ね、誰だって、最低でも「賛成」「反対」の二人の自分がいるもんじゃないのかなぁ。と、ぼくは思っている。ごちゃごちゃ言う「ぼく」だって、実際、人格を形成するには未成熟な「ぼく」なので、たぶん、言ってる「ぼく」は、ぼくだと思う。

ぼくは現金主義者である、っていうか、キャッシュカードは持っているけどクレジットカードを持っていない。現金にしたって、それがそれだけの価値があるっていうのは、ある意味、「貨幣価値を信用」しないと意味がないのだからクレジットには違いないのだけど。

ぼくにとって、「クレジット」というと、昔行ったゲーセンで画面の下の隅に、あらかじめ入っている100円玉の数を表示する文字列である。

クレジットカード
どこかで「プラスチックマネー」と書いてあった。それにしても、お金って変な存在だ。と思い始めると、明日食べる食べ物との物々交換をしないといけなくなるので、面倒なので信用することにしている。

さすがの現金主義者のぼくも、来年に発行されるという二千円紙幣については
「なんだかなぁ『平成』」
と思っている。沖縄の守礼門と、源氏物語絵巻が図案として採用されているらしい。
ぼくは、スーパーや、コンビニのレジのトレイの皿数が足りなくなるのじゃないかと、ちょっと心配なんである。
いや、自分の財布の中の仕切りの数が心配なんである。
夏目くんが紫式部の半分にされるのが心配なんである。

日本人の暗算能力は世界有数らしいから、たぶん、大丈夫なんだろう。

電子商取引の時代であるから、金額は情報量としてやりとりされている。
「エレクトリックマネー」
ぼくのように、その方面に疎い人間でさえ、給与明細をもらうと、知らない間に口座にその金額が入っている。いろいろなにかと、天引きとか口座引き落としで、お金が出ていっている。

ぼくが使っているインターネットプロバイダーが定額制を導入してくれるらしいのだけど、クレジット決裁でしか契約してくれないらしいので、これを機にカードでも作るかと、こないだ第一勧銀の窓口から申込み書を取ってきた。キティちゃんの表紙がちょっと、こっぱずかしい。キティには口がないので、つぶらな瞳で、ぼくに、無言のプレッシャーをかける。

大学生になった時や、社会人になった時、なにやら「保証人」とかいうのを書く書類を渡されて、「他人の保証人になれるのが、大人なのだ」と勝手に思っていた。そういう意味では、ぼくは大人ではない。

そういや、ぼくは「印鑑証明」とかいうのも持ってない。目の前に、ぼく自身がいるというのに「印鑑をいただかないと」などと言われると腹が立つ。三文判の認め印の方が俺より信用があるものか。それでは、ぼくの身代金は三文以下であろう。だからと言って、クネクネした実印の作製の勧誘に乗る予定もない。どうしてもっていうなら俺が彫る。

なんてことを思い出しながら、申込み書を見ると、特に保証人のような欄がない。どうやら、頭の中でサラ金のようなものと混同していたらしい。そういや、「内臓売って返済しろ」と迫る業者がいるとか。

なんにしても、ぼくに給料を払うところの勤め先の信用度なんだろうな。たぶん。と思う。ゴールドカードは30歳以上らしい。じゃぁ、あと半年くらい待たなきゃならない。「安定収入のある方」とある。月給もらってるくせに、忙しい時と、暇な時とでは給料の額が全然違うから、「不安定な収入」なんじゃないか?とトボケるのは、「不安定精神の方」である可能性がある。

今のぼくが、ぼくの分不相応なお金をもらってるらしいことは貯金があることから明らかである。(いや、そんなに金持ちだと言いたいのでなくて)「老後の備え」とか「病気した時のための備え」とか口にされると、「大きなお手紙召し上がれ。山羊さん」(「糞食らえ」の丁寧語のつもりらしい。)と思う。

「ぼく」は、たぶん、ぼくしかいない。そのことだけはいくらか信用できる気がする。他人に対するぼくの存在証明には成り得ないけれど。

朝起きる前に、夢を見ていて、たしかに「ぼく」なんだけど、普段、社会的生活を送っているところの「村上某」ではなくて、単なる「ぼく」でそこでは、それなりに某かのキャラクターを演じていて、ストーリーが終わったり終わらなかったりしたまま目覚めを迎え、「あ、ぼくだ。」と思いなおしたりする。

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当時の本 『マンガ夜話 vol.5』(キネマ旬報社, 1500円+税)ぼくの部屋、BSアンテナ来てるけど、チューナーがないの。今回の収録は『バタアシ金魚』望月峯太郎、『行け!稲中卓球部』古谷実、『攻殻機動隊』士郎正宗
当時の世 ダイエー日本一らしい(けど、えらい赤字らしい)。
当時の私 髪を切ったが、散髪屋さんのマッサ−ジではカタコリニコフは離日しない。

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