[*]Room for room

Date: Sat, 09 Jan 1999

さて、なんやかやしてるうちに、退寮期限は迫ってくる。仕事の納期も迫ってくるのであるが、いまいちマネジメント能力というのが、小学校の夏休みの宿題以来破綻している私は、その辺りの切り分けが相変わらず苦手なのである。

昔は、「どうも自分の考え方は、同い年の子と比べて老けてるのではないか?」と思っていたのだが、この所、「どうも、ここ十年くらい、精神年齢の成長が止まっているのではないか?」と思えてならない。かろうじて、行き帰りの電車の中で高校生や大学生とおぼしき方々の会話を聞いて、「子供っぽいな」と思える自分を発見して、大人であろうとしている。

たぶん、世間的にいい年しているにも係わらず、大学には自宅から通ってたし、仕事しだしてからは寮住まいだったから、部屋探しをするのは初めてな私であった。そんな私は、「部屋探しは場数よ!」と連呼するCMを見ると「あ〜」と軽く気落ちしてみるのであった。

なかなか信じてもらえないのだが人見知りする私(今年の誕生日が来たら29になるのに、何言ってんだか)は、いきなり不動産屋を訪ねるのに気後れして、「ま、せっかく、インタ−ネット使ってるわけやし」と独り言い訳しながら、物件を検索するのであった。メールサービスのあるホームページのある所に、登録してみたりして、週一回くらい、自分の登録した条件に見合う物件の情報が電子メールで送られてくるのを見て、時折、「資料請求」とか「問い合わせ」してみたりしていた。

余談であるが、私は「インターネットする」というサ変動詞がきらいである。

ところが、あんまり返答の感じが良くない。それもそのはずである。非常識で大人げない私は、連絡希望のところに「平日の夜10時以降、あるいは土日」というのを指定していたのである。そんな時間に先方もやってるわけがないのである。それでも、私は、「この頃忙しいし、確実に部屋にいるのは10時以降だよな」と正直な申告をしたつもりでいたのであった。

たまたま調子を崩して休んでしまった日に、「せっかくだから」と、私の条件にかなった物件の情報を時折アップしていた不動産屋に電話してみることにした。

私 「あの、数日前にインターネットでお部屋の情報の問い合わせした者なんですが」
担 「何日頃、お問い合わせいただきましたか?あと、お名前いただけますか?」
私 「えっと、こないだの土曜日だったと思います」
担 「少々お待ちください」
・・・・・・
担 「もうしわけありません。お問い合わせいただいた物件、もう終わっちゃいました。いや、連絡とれるのが10時以降だったんで、連絡できなくて申し訳ありません。」
私 「いや、こちらこそ非常識な時間を指定してしまって、すいません。」

(でも、日曜日には居たんだよな)と思いつつも、(やっぱ非常識だな俺)と思う。(それにしても、問い合わせたら、もう終わってるって展開はありがちな気もするな)

私 「そうですか。終わっちゃったですか。そうしたら、お願いしたような条件で似たようなお部屋あったら紹介していただきたいんですけど。」
担 「そうですね。じゃ、探してみますね」
私 「あの、よろしければ、今日、このあと、そちら伺ってお話聞いてもいいですか?」
担 「あ、結構ですよ。えっと、じゃ、条件をうかがっておきましょうか。まず、沿線ですけど。それと、駅からどれくらいの距離がご希望ですか?」
私は、通勤に使っている沿線を答えた。
私 「今、住んでる寮が、駅から15分くらいかかるから、その程度までで」

担 「ワンルームタイプでよろしいですか?マンション?アパート?」
私 「あの、つかぬことをうかがいますが、マンションとアパートってどう違うんです?」

マンションとアパートの違いは、ぼくにとって、バーとかラウンジとかパブとかスナックとかの違いと同じくらいに分からない。
ぼくは、アパートよりもマンションの方がちょっと高級なのかな?洋間だとマンションで、和室だとアパートなのかな?旅館とホテルみたいな違いかな?アパートって普通2階建てだよな。木造だとアパートで鉄筋だとマンションなのかな?と思っている。不動産屋の担当の方の説明もいまいちよくわからんが、ざっくり言ってアパートだと2階まで、マンションだと3階以上というような話だった。

マンション [mansion] 中・高層の集合住宅。多く,分譲形式のものをいう。

アパート 〔アパートメント-ハウス(apartment house) の略〕 一棟の建物の内部をいくつかに仕切り,それぞれ一個の家として貸すもの。共同住宅。 

辞書を引いても、いまいちよくわからん。
「別にこだわらないので、どっちでもいいですよ。」と答えつつ、
「なんで、同じ間取りでも上の階の方が家賃高いんですか?」と質問する私。
なにやら説明してもらったが、いまいちよくわかってない。その証拠にその時の話を今、覚えてなんかいない。

私 「たぶん、ものが多いので、収納がしっかり欲しいかな。今の部屋は6畳だけど、押し入れと、壁に据え付けのタンスみたいなのついてるし」
担 「押し入れは一間のものですか?」
一間と言われても、よくわからない。どうやら畳の長い方の辺の長さらしいとわかる。

間 [けん] 長さの単位。1 間は 6 尺(約 1.818m)。1958 年(昭和 33)以降法定単位としては廃止。

当然、面積を坪で表されたってちっともわからない。平米だと分かるかと言うと、ちょっと計算すると分かる程度で、ちっとも直観的でない。

坪 [つぼ] 土地や建物の面積の単位。1 間平方。曲尺で 6 尺平方。1 坪は約 3.306平米。歩(ぶ)。

ん?じゃぁ、いわゆる2帖とか2畳が1坪分なのか? でも、どうやら、寮の部屋は、台所やトイレ、風呂は共用ゾーンだから外付けだし、タンスや押し入れの面積なんか考えると、8〜10畳相当なんだろかと思ったりする。
私 「あの、たとえば、資料に「1K 部屋8 台所3」と書いてあったら、8のうち3が台所なんですか?」
担 「いえいえ、別々ですよ」

担 「車、お持ちですか?」
私 「いいえ」
担 「あとご予算の方ですが、どのくらいを予定されてます?」
私は、引越やら生活用品購入の費用など諸々を含めた予算はいくらくらいだろうか?と一瞬考えたが、
あ、なんだ、今の話は家賃のことだ、と思い直して、「う〜ん、7万くらいまでですかね」と答えた。

会話の苦手な私は、ただでさえ弱っていたのに、ヘロヘロであった。自分で言いだしたのに、その日、これからお店に行って、お話しなくてはならないことを思うと、会う前からなんだか疲れる気がした。

私の中で、こないだの指輪屋のセリフがリフレインする。「買う気もないのに、会う約束をするなんて、失礼じゃないですか。じゃ、あなた、自動車のディーラーの所に行っても、『まだ、買うかどうか、わからない』なんて言うんですか?非常識ですよ。ふつう、買う気があるから出向くものでしょ」

「ふつう」と「常識」を言われるなら、ふつう、出向いても買う気がなくなることだって、しばしばあるもんだろ。うん、すくなくとも、今回は、「借りる気」十分ではあるのだよ。体調も知識も不十分だけど。と思う私なのだった。

つづく

---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の本 『考える日々』池田晶子(毎日新聞社, 1600円+税)通勤電車の中で読みつつ、心の水面に出来た波紋をなぞりながら、内なる小宇宙をただよったりする。職場の最寄り駅への到着のアナウンスが私を「現実」と呼ばれるものに引き戻す。
当時の世 オリンピックの誘致絡みの裏舞台が話題らしい。
当時の私 引っ越したら、「電車で読書」の時間が短くなっちゃうな。」と思っている。

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言葉の意味のところの引用は三省堂 『ハイブリッド新辞林』からです。