開けてくれ

主としてマンホールの蓋や道路標示などの路上物件が、道路工事や再開発などで一部を埋め立てられて機能を失した状態のもの。見た目にも半身不随的なものが多く、トマソン特有の侘びとか寂びとかいう心情よりも、むしろ残酷で痛ましい感じを受ける。路上は常に何かおかれたりするところだから、路上固定の不動産的物件はいずれも生き埋めの危険にさらされている。系統としては地層物件につながっている。

寮の近くのとある場所で見つけた。マンホールの中から「う〜、開かねぇ〜」といううめきが聞こえる気がする。


天国への扉

トマソン物件はその構造体の一部を物理的に封じられて無用のものになっているが、高所物件の場合、物件そのものに異常はなくとも、その位置の異常がトマソン化をもたらす。ドアなどが高所にあることで無用化していることが多い。他のトマソン物件が詫びや寂びにつながる感慨をもたらすのに対して、高所物件は見上げるものに、高所恐怖的な恍惚感をもたらす。ただし高所ドアなどは荷物用として機能している場合もある。

この物件は村上が帰省した際、大阪府豊中市で発見したものである。この地上4階のドアから人が漏れてきて、昔、持っていたゲームウォッチのファイアのように、ピッピッピッと落ちてくるんじゃないかと思うとなかなか恐いものがある。


カラケ練習所

看板文字などの一部が消去されている物件。特に一部消去のあと、その文字を改変して再利用を考えているフシがある。第一物件の「卯山○店・○はウヤマ」によってはじめて意識されたことから、ウヤマの名を冠する。廃物利用、あるいは貧乏性、省エネ、コンパクト思想、といったトマソン的特徴を備え、それが図像的世界、意識の領域で発揮されているところがトマソンの中でも珍しい分類に属する。

田園都市線を藤が丘で下りて発見したものである。遠目には「カラテ練習所」に見える。ちなみに、この建物の反対側の壁には「カラオケ練習所」とある。それはさておき、「カラオケ練習所」ということは、どこかにカラオケの本番をやるところがあるのであろうか? 謎である。



定義は『トマソン大図鑑 空の巻』赤瀬川原平編(ちくま文庫)による
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