[*]Night W**ker

Date: Mon, 17 Apr 2000

その夜も私はナイトウォーカーであった。Night Workerだと夜勤の人みたいだけど、べつに昼夜交代制の職場に勤めているわけではない。単に残業が長かっただけである。Night Walkerだと、なにやら本屋で、俗に言う男性雑誌の棚なんかに置いてある、ある種の文化風俗を紹介するガイドブックか、あるいは泥酔とか夢遊病で夜中に歩く人である。どっちにしろ和製英語っぽい言葉だ。

私は、歩け歩け大会主催者兼参加者約一名である。お遍路さんではないので、白装束ではないし、「同行二人」とは書かない。弘法大師さまはついてくれなくても、影法師はついてくる。時折、光源が背中側になると、私を追い抜かしたり、複数の光源がある時は分身の術を披露したりして、驚かしてくれる。あいにく私のデジカメはフラッシュがついてないので、主に大会が開催されるのは昼間である。ちなみに昼間の私はDaypackerである。

Night workerからNight walkerに帰りの電車に揺られながら変態していた私は(変態と言っても、別に痴漢行為に及んだとか、怪しい露出狂者になったとかではなくて、昆虫が、幼虫から蛹になって成虫になるアレである)陸橋の階段を上りながら、ため息をつく「ふぅ疲れた」つい、口に漏らすのでは、「ま、いつもの口癖でしょ」と思えるが、文字で「疲れた」と書くと皮の上に病のオーラをまとっているようでいかん。なんか、「かさぶた」って感じだ。はがしたくなる。

なんだか、自分のため息がドブ川の臭いがするような気がする。もう内臓がかなりいっちゃってるのかもしれない。コンビニで赤ワインを買う。こないだ懲りたのでコルクの刺さってるやつでなくて、ちゃんとスクリューキャップになってるやつである(「ちゃんと」というならコルクの方だろう)。「なんか知らんけど、赤ワインの方がポリフェノールの量が多くて体に良いらしいぞ」いや、その前に、私のようなガブ飲みする人の場合、その他の成分の悪影響の方が多いに決まっている。

日本語には「過ぎたるは及ばざるが如し」とか、「腹八分目に医者要らず」ということわざがある。

「後悔は先に立たず」という言葉もことわざのような気がするが、「冷酒はあとに効く」ってのは近所の白木屋のトイレに書いてある親父の小言である。女子トイレだと母の教えでも書いてるのだろうかと思ったが、どうやら親父の小言が書いてあるらしい。別に私が潜入して確認したわけではない。

700mlくらい入ってるビンを一本空けたのだけど、なんだか足りない気がして、追加オーダーした。だが、お店ではなくて自室なので、追加オーダーの手配をするのは自分である。財布をポケットにつっこんで表に出掛ける。

王蟲!いけない、目が攻撃色になってる。

なんでか酒を飲んだ時の方が、世界がくっきり見える気がする。たぶん、聴覚や触覚、嗅覚が鈍っているので、視覚の世界が目立つことによる錯覚だと思う。なにしろ、世界がくっきりと二つ見えるのである。単に両目の焦点があってないだけである。

私が私の体を酒気帯び運転していると言うのに、世間ではビュンビュンと自動車が走っている。みんなエラいなぁ。でも、ヘンなの。実はヘンなのは私の方だ。

ビールの自動販売機に向かう曲がり角に、いかめしく立っている人がいる。腰から棒のようなものを下げている。お巡りさんだ。こちとら特に犯罪を犯してるわけではないし、法的に飲酒が認められる歳を十くらい過ぎてるのに、なんでか、お巡りさんを見ると、うしろめたくなるのは何故だろう。

追加のビールを仕入れたあと、元通り帰ったら、またお巡りさんの前を通らないと行けなくなるので、ついつい遠回りしてしまう。小心者である。さっき前を通った時に少し緊張してしまって酔いが覚めた気がする。さては当局の陰謀か(違う)。

でも、いつもと道を違えて帰るのも、亦、楽しからずや。

すると、向こうからサーチライトを照らしながら犬の散歩をしている人が来る。変わった人もいるもんだ。と思ったら、シェパード犬である。「お、カール号。」コリーだったらラッシーと決まっている。セントバーナードだとヨーゼフである。ダルメシアンだと「あと100匹はどこにいるのだろう。」と思ってしまう。パグだとチャトランの相棒のプー助だし、はて、パトラッシュは何犬だろう。ハチ公は何犬だろう。

サーチライトを照らすのはお巡りさんである。怪しい私は職質を受けるのではと勝手に緊張したのであるが、素通りしてしまった。泥臭くて汗臭くて酒臭い私にカールの鼻が曲がらないことを祈るのみである。近くの店にパトカーと白バイが来ている。泥棒かなにかの被害があったのだろうか。

遠回りして歩いて興奮した私は、先に飲んだワインが回ったのだろうか。追加オーダーの栓を開ける前に言切れて、意識不明の泥になった。

---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の本 『ヒコクミン入門』島田雅彦(集英社文庫, 552円+税)多摩川の「中流」の家庭に育った青二才の引越ジプシーは、季節亡命をし、ヒコクミンとなった。
当時の世 ピンク色系の服の上に、青のジーンズの上着、膝下丈の黒いストッキングに、つっかけ(ミュールって言うのか?)を履いてる女の人に何人も出会う。量産品なんじゃないかと思ってクラクラする。
当時の私 生ハムをお湯に通すと、しゃぶしゃぶになるのだろうか。ならないと思う。メロンに生ハムってうまいのか?っていうか、ぼくはメロンは苦手だ、口の中がかゆくなるので。

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王蟲は、「風の谷のナウシカ」に出てくる、巨大な芋虫状の生物だが、昆虫のガス交換機構だと、あまり、体を大きくできないことを現代の生物学は教えている。しかし、王蟲はどうやら脱皮で大きくなるようだし、あのあと、繭を作ってモスラになる様子でもない。私は空想科学読本の著者ではないが、モスラは初めて飛ぶときに、羽が根元から折れるのではないかと思う。たぶん、撮影でも折れたことだろう。

掲示板でも、ひなさんに突っ込まれましたが、職場のNさんにもちょっと振ったら、「前に、ハチ公物語って映画で見たら、秋田犬だった」と言ってました。
パトラッシュはなにやら、ベルギー原産のブービエ・デ・フランドルという犬種で、フランドルってのを英語読みすると、フランダースなんだそうです。