(む}On the pavement

Date: Mon, 31 Jul 2000

桜の木の下には死体が埋まっている(by 梶井)らしい。では、土手の桜並木は堤防の決壊を防ぐための人柱なのであろうか。

夏の舗装道路の上には死体が転がっている。前の日の晩に地表に冒険旅行したのはいいのだが、地中に戻るべき場所が舗装道路にはないのだ。ああ、干からびたミミズ。

死んでも土に帰れない。やつらは身を挺して、人類の文明の力の傲慢さを訴えているのかもしれない。

かつて男の子であった人ならば「ミミズに小便かけたら、ちんこが腫れる」という戒めを聞いたことがあるだろう。「神社の鳥居」にかけても腫れると聞かされたことがある。だから時折、「立小便禁止!」と書いて、下に赤で鳥居の絵を描いているハリガミに出会うことがある。

鳥居というのは、鳥がとまって居たりするから、そんな名前なんだろうか。ハトなんかがとまってたりしてフンなんかしてしまったりしても、ハトのお尻が腫れてしまったとか、つい、散歩中の犬が電柱と同じノリで、鳥居にマーキングしてしまって、犬のちんこが腫れてしまったという話は聞かない。やはり神罰は人にのみ下るのであろうか。それにしても、なぜあの前足を上げて軽く跳ねる芸をちんちんと言うのだろうか。

さて、「学研の科学」の愛読者であったお子様の私は(もっとも、「学習」も併読していた。当時から文系理系を問わず学際領域に興味があったのである。なんちて)、ミミズに小便をかけても腫れない対策を究明しようと思考しながら、しっこをしていた。

「おしっこをかけた時に、なんらかの電気的刺激、あるいは、化学物質がミミズから出されて、それが小水の奔流を遡るように来て、炎症を引き起こすのではないか。だとすると、連続的に浴びせるから逆襲を受けるのであって、断続的にかければ、それを免れることができるのではないか」

かくして、私は、下腹部の筋肉のコントロールによって、小便を断続的に出す、まるで水芸だか噴水だかみたいな方法の訓練に、日夜いそしんだのであった。

だが、不測の事態が起こった。実地試験を行う前に、私のちんこはミミズの呪いを受けて腫れてしまったのであった。いや、ミミズの呪いではなかったのかもしれん。母にも「きちゃない手で触るからや」と叱られた。尿道炎と言ったであろうか、幼い私は抵抗虚しく、無理やり剥かれて、スプレー状の薬を塗布された。それが、また尋常でなくしみるのだった。ひょっとすると、これが幼児虐待のトラウマになってるのかもしれない。

かくして、検証は行われないまま、ミミズの呪いを受け、私が書く字は、「ミミズがはったような」字と言われるのである。ああ、習字教室の月謝はすべて水泡と帰したのだった。だから、ミミズを漢字で「蚯蚓」と書くことなど、とてもじゃないができない。<関係ないと思う。

ミミズを干したものを漢方で「地竜」と呼んで、熱冷ましや、風邪の薬として使うらしい。だからといって、夏風邪と日射病でフラフラした頭で、路上で頓死したミミズを「お薬、お薬」と言って集めて煎じて飲んだりしてはいけない。なお、「土竜」と書いたら、それは「モグラ」である。くれぐれも間違わないよう、気を付けて頂きたい。

「ミミズ腫れ」という言葉がある。私は初めこれは、やはり、先に述べたミミズの呪いで腫れることだと思っていたのだが、数秒後にその単語を使う人の症状を見て、「ミミズみたいな形に細長く腫れができること」であると理解した。

何かの角で引っかいてしまった時になんかなるが、小学生の頃に一番危険だったのは、後ろハヤブサの訓練中の事故によるものが多かったと思われる。ご存じでない方のために説明しよう。

「後ろハヤブサ」とは・・・・・縄跳びの技で、後ろ二重跳びのうち一回を、あや跳びにするハイグレードな技

のことである。

近頃の私は縄跳びなどしないのに、脇腹にミミズ腫れがあったりするが、それは、決して女王様に鞭打たれた跡なんかではなく、贅肉がシャツやズボンの皺に巻き込まれて出来たものである。「女王」って発音は、どうも「じょうおう」なのに、字の表記は「じょおう」なのね。パターンとしては逆だが、似たようなケースとしては「体育」がある。

世の男性の多く(おそらく、ほとんど)は、ミミズの呪いでもないのに、ちんこが腫れるケースがあるが、それは多分、朝起きる前か、非常に疲れたか、妙に興奮してるか、不埒な想像をしているか、あるいは、人類の存続、のためであろう。たぶん、ミミズ以外の、なにがしかの呪いである。

そうこうしてるうちに、夏の太陽はどんどんと高度を上げて、ギラギラと輝きを増す。舗装された地面にはもぐり込める場所はなく、だんだん乾いてきて、動く気力もなくなってくる。朦朧とする意識の中で、彼氏であり彼女でもある(ミミズは雌雄同体なので。)ミスターでミズなミミズ氏は思う。

「ああ、なんか、だんだん、干からびてきたなぁ。こんなことやったら、昨日の晩の夕立の時に、慌てて巣穴から出んかった方が良かったかも、知れんなぁ。でも、あのままやったら、溺れ死んでたかもしれんしなぁ。...........................しかし、喉渇いたなぁ。ってワシの喉ってどこやねん。.......................み、水〜。って、俺、ミミズ。..................寒............ああ、どうして、外はこんなに暑いのに、心がこんなに寒いんだろう。..........................................

絶息

---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の本 『フェミニズム・サブカルチャー批評宣言』村瀬ひろみ(春秋社,1600円+税)アニメの中に見る「戦う少女」。田島陽子と、吉澤夏子をめぐって。AV女優黒木香の挑戦。
当時の世 土用の丑の日
当時の私 「土曜の牛の日」だと思って、週末はビフテキ(死語?)だと勘違いしたお子様は、全国で累計一千万人を超えると思われる。

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