[*]It's KANSAIsh

Date: Thu, 30 Jul 1998

豊田に続いて、大阪で打合せがあるということで、結局、1週間は東海道巡業の旅になってしまった私です。

さて、新幹線で新大阪までたどりついた私は、なんら宿の手配などしていないので、実家の世話になろうと思っていました。しかし、迂闊にも、荷物を送らずに、持ち運んでいたので、作業のためというより、移動のために右肩が痛くなっていました。

いつもなら、ここからJRで大阪まで行き、阪急電車に乗って帰るのですが、あまりの重さに、タクシーで新大阪から家まで向かうことにしました。

「どっこいしょ。」
と乗り込んで、「尼崎の園田まで」と行き先を告げる時に、「アマガサキ」と「ソノダ」の音の響きや、イントネーションがこうだっけかなと妙な感じがしたのですが、豊田で一緒に作業したHさんも関西の出身だったので、とりあえず、海から川に遡上するサケ(関西風にいうならシャケか?)が河口で体を慣らすような感じで関西風の会話をしていたので、予行演習はできてたようです。

やおら、タクシーの運転手さんが得意のSmall talkをはじめます。前にも書きましたが、ぼくはこれがあまり得意ではありません。出張先の移動の車中で、現地スタッフの方が上手にこれをこなしているのを聞いて、ぼくは感心したものでした。

「今日も暑かったですなぁ」
(って、運転手さん、ずっとエアコン効いた車ん中に居てはったんとちゃいますのん)
というツッコミが心の中で湧いたのですが、まぁ、天候の話から入るのは、いわゆる「つかみ」というか、「飲み屋のお通し」というか、[初乗り運賃」というか、そういうやつなので、流すことにします。たぶん、あとは渋滞とか景気の話でしょう。「もうかりまっか」「ぼちぼちでんな」は、ぼくはあまり得意ではないので、おとなしく運んで下さいとお願いしたくなります。

「もう、8月も来るゆうのに、なかなか梅雨明けしませんなぁ。しかしまぁ、この頃の天気は変ですわ。異常気象でんなぁ。」
翌日、天気予報で「31日頃、梅雨明けしたもよう」と言ってたので、実は明けていたのかもしれませんが、つかみ2号が襲ってきます。
それにしても、天気予報、「〜頃、〜したもよう」って自信なさげで笑えます。
なんか、「とりあえず、用心のために『ところにより、にわか雨』言うとけ」って感じです。
降水確率って何を何で割ったものなのでしょう?

「そうですねぇ」と気のない合いの手を入れるぼくに対して、運転手さんは「えらい大荷物抱えて、どこまで行ってはったんですか?」と次の口撃に出ました。しかし、どうやら、ぼくは大阪が地元の人と認定されたようです。
「ちょっと、愛知の方まで」
「ほう、そうですか、名古屋ですか」

関西人だけに見られる傾向なのかどうかは定かではないのですが、多くの人が
愛知趨シ古屋
と思ってるんか?という話し方をします。似たような例としては
滋賀数琶湖
ってのもあります。

そこから、運転手さん「つかんだ」と思われたのかもしれませんが、以前、名古屋で働いていた時の話や、栄のキャバレーで遊んだ話なんかを延々して下さったのですが、ほとんど聞き流している状態でした。ぼんやりと、外を見ていて、大阪空港(本当は兵庫県伊丹市にある。まぁ、その辺は東京ディズニーランドと同じ)に降りる飛行機が低いところに飛んでいるのを見て、「うん、帰ってきたな」と思いました。質屋さんの看板に大きく「ヒチ」と書いてあるのを見て、「うん、うん」と心の中でうなづきました。

疲れて眠って目覚めた翌朝、
近所の中学校の校庭の木に止まったクマゼミの鳴き声を聞くと「う〜ん、やっぱ西日本の夏はクマゼミやね。うるさいけど。」と思いました。

近所の中学校の校舎の教室に集まったママさんコーラスの果てし無いリプレイを聞くと「う〜ん、クマゼミと勝負してんのかな?」と思いました。

---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の本 『君が壊れてしまう前に』島田雅彦(角川書店,1500円)14歳問題、郊外問題、世間の学校化問題の中で、終わらない日常を生きていくこと。宮台真司なんかが評論でやっているのを、日記文体の小説でやったもののようだ。心の中に未だに残る14歳のぼくに。
当時の世 近畿地方は梅雨明けしたらしい。
当時の私 ぐったりしている。

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