[*]The Mouth of Groove

Date: Sun, 31 Aug 1997

武蔵溝ノ口駅は未だ駅改良工事中である。いかに改良工事中とはいえ、工事中は不便になるのだから、一時的には改悪工事中である。駅前を空中で結ぶ歩道橋(ペデストリアンデッキと呼ぶそうだ)もやっとその全貌を表しつつある。駅前に立派なビルも立っている。9月12日のオ−プンということだから、それまでには工事は落ち着くのだろう。

「みぞのくち」は住所表記では「溝口」、JRとNTT、郵便局は「溝ノ口」、東急は「溝の口」である。ちなみに、駅前の立派なビルに入るマルイは溝口店である。ずいぶん前に、切り抜いていおいたのに行方知れずになっていたのが先日、自室から発掘された記事(朝日新聞1996年11月13日神奈川版)によると「みぞのくち」というのは、

「丘陵の谷間をぬって流れてくる平瀬川が、多摩川近くの広大な低地に流れ出る場所の意味」

なんだそうだ。なんだか風水的な重要な場所なのではないかと思ったりもするが、あいにく私は風水師ではない。昔は「溝之口」と書いたこともあるらしい。「ややっこしいから統一してくれ」という地域住民の声もあると聞く。残念ながら、記事には、なんで何もなかったり「ノ」だったり「の」だったりするのか具体的理由は書かれていなかった。なんだか「『ノ』を入れないと『みぞのくち』」と読めないからでしょう」という意見がトホホであるけど一番もっともらしかった。

さて、空中歩道が完成しても使われるかどうかわからないけれど、東急とJRの駅の接している所に朝だけ開いている臨時改札口がある。自動改札機のない通路もあるので、スルーできたりするから、厳密には札を改める口ではない。件の改良工事の影響で一時期、歩行者用通路が大迂回していたので、結構この臨時口を利用していた。なんでかここの表示板は「武蔵溝の口」となっている。東急に接しているので、その気を受けてしまったのかもしれない。

駅のアナウンスが言う。「この時間、臨時改札口は大変混雑しております。本改札口をご利用下さい。」ちょっと待ってくれ。臨時改札口はこの時間しか開いてないのだ。この時間に利用せずして何のための臨時改札口なのだ。でも確かにあまりの混雑に人間ところてんになって、にゅーっと出て行ってしまいそうではある。

反対側のホームへは陸橋を渡る。床が鉄板にシートを貼っただけだから、大勢の人が通るとガンガンとうるさい。おまけに「まもなく、電車がまいります」な場合には、まるでこの世の終わりから逃れたいのかと言わんばかりのダッシュをする人が多い。各人の運動エネルギーがガンガンという音の形で消費されて効率が悪い上にやかましい。

立川方面に向かう電車はおおむね2番線に入る。駅のアナウンスが言う。「ホームをお歩きになる際は3番線側をお歩き下さい。」もっとも朝の通勤時間は多くのお客様が東急との乗り継ぎで最後の審判を迎えようという状態なので、お歩きになる方よりも、お駆けになる方が多い。

ホームで電車を待っていると、またしても妙なことを言う。「電車がまいります。黄色い線の内側に下がってお待ちください。」以前は確か、「白い線の…」と言っていたはずである。「黄色い線」というのはいわゆる点字ブロックの列のことである。従来の「白い線」は「黄色い線」よりも線路側にあるのだ。どうも鉄道会社は巧妙に列車と乗客との距離のマージンを広げた疑いがある。

混雑した電車に乗る。「お体お荷物強く引いて下さい。」作用反作用の法則によると、もう一点別の固定点を設定しないと、お体とお荷物を両方電車の中の方へ引くことは不可能である。そのように悩んでいる間に、押し寄せる乗客という外力を加えられたお体とお荷物は車内に納められ、「この先揺れますのでご注意下さい」と言われてもなおひどい、加減速やカーブの際の揺れによって頭をシェイクされ、くだんの謎の答えを引き出せないまま。おそらく通勤時間を終えるのである。

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当時の本 『ディルバートの法則 THE DILBERT PRINCIPLE』(アスキー MAC POWER BOOKS, 1942円)「第14章 エンジニア、科学者、プログラマー等々の変人」なんて読むと、「俺って結構エンジニアっぽい所もあるな」と思う。スヌーピーは小説を書くが、ドグバートは会社批評をこなす。
当時の世 残暑ざんしょ
当時の私 ほんの2、3カ月会ってないだけなのに「なつかしいねぇ」と挨拶しあう人達を見て、「どうして、そんな語彙を使うかなぁ。それとも、それほど時の流れは速いのか?」と思った。

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