[*]Out of bounds

1997/09/03

ホームで電車を待っていると、駅のアナウンスが妙なことを言う。「電車がまいります。黄色い線の内側に下がってお待ちください。」以前は確か、「白い線の…」と言っていたはずである。「黄色い線」というのはいわゆる点字ブロックの列のことである。従来の「白い線」は「黄色い線」よりも線路側にあるのだ。どうも鉄道会社は巧妙に列車と乗客との距離のマージンを広げた疑いがある。

話をややこしくするのは「内側」の定義ではないかと思われる。先の段落で私は説明文中で意図的に「線路側」と書いたが、実は第一稿では「内側」となっていたものを修正したのである。電車の立場からすると、どうみても「内側」=「線路側」だ。

次に点字ブロックの立場に立ってみよう。実は私は、駅のホームの点字ブロックは、あれは点字シートなのではないかと思っている。ブロックを名乗るのなら、いくらか土台に厚みがあって、通路に埋め込まれているようなものでないといかんのではないかと思うのである。なのに、どう見てもあれはペタリと貼りましたと言わんばかりの形である。しかし、慣習となっているのでブロックとする。

点字ブロックというのはいくらかの幅を持っている。通常のサイズの大人なら、足をそろえて「気をつけ」したら、ちゃんと一人くらいは収まる程度の広さはあるのではなかろうか。だとすると、点字ブロックの観点からは黄色い線の「内側」=「点字ブロックの上」ということになるのである。

そして、これは一般的な解釈であるが、ホームの側から見た立場である。これは先述したとおり、鉄道会社の策略により、我々はまんまとより電車から離れる方向に距離をとることになっている。つまり、「内側」=「線路から遠くなる側」ということだ。

言うまでもないことだが、以上のようなことを、「電車がまいります…」のアナウンスを聞いたあと、おもむろに考えはじめたのでは、いかに回転の早い脳を持っていたとしても、事故にあうおそれが大きくなるので辞めていただきたい。さすがの私もとりあえず3番目の選択をしたのち、考察に入ったのである。ただし、「下がれ」と言われて律儀に後ろ向きに歩いていたら、思わず点字ブロックの凸にかかとがつまづきそうになった。危ないから今後気を付けよう。

目次へ戻る