[*]Petit bourgeois

Date: Mon, 27 Mar 2000

「二階から目薬」というと、「意のままにならないさま」という意味だが、果してそうか?私はピンポン球を目玉の親父に見立てて、地面に置き、二階のベランダから、そこを狙って目薬を落としてみたことがある。なるほど、ゴルゴ13のような狙撃の腕を持ってない私には、当てることができなかった。

「二階から目薬」というのは、「意のままにならないさま」というより、そもそも、目標の設定を間違っているのではないかと思われる。いかに、デューク東郷と言えども、ライフルでなく目薬では確実に狙撃できまい。そうこうしているうちに、風に煽られて、ピン玉の親父はコロコロと転がって、旅に出た。さようなら。

なにも二階からやらなくても、普通に目薬をさすのさえ、ついつい目を閉じてしまったりして、意のままにならない。ついつい口を開けてしまうと小市民になってしまう。点眼の時に、眼が点になるようでは、針の穴を通すコントロールが必要である。でも、おそらく、針の穴は小さいので表面張力によって目薬は通過できないと思われる。

昔は、どうしても目をつぶってしまうので、とりあえず目の開いた状態で目薬容器を位置決めして、目をつぶり、おもむろに、目頭を狙って点眼し、目をパチクリさせて流し込む作戦を敢行したりした。

しかし、「使用上の注意」を読むと「容器の先端が目やまつ毛に触れると液が汚染される」ようなことが書かれているので、どうしてもこれは目を開けてささなくては。と思われた。

指の力で、むりやりまぶたを開く。目薬の容器の先端が視界に入る。なんとなく、写真撮影の時に、写真屋さんに、「カメラのレンズの方を見てください。」と言われて、レンズを意識してしまうと目をつぶってしまうのに似ている。

なんだか怖くて、黒目が逃げて、白目をむいて、さしてしまったりする。端からみると、必死の形相に見えるに違いない。たかが目薬をさすだけなのに、一大事業の大仕事である。

こんどこそはと、目薬容器の先端と向き合う。容器を持つ右手に力が入る。ああ、液滴がじわじわとでかくなる。落ちてきそうで落ちてこない。まるで、線香花火の今際の時である。心の中ではジョーズのBGMが流れている。一大サスペンスである。

そういった紆余曲折の末、私は口も開けずに白目もむかずに、目薬をさせるようになったのであるが、左手を添えてまぶたを無理に開くことなしに、さりげなくさす技はあいにく持ち合わせていない。

使用上の注意を見ると「冷暗所に保管してください」とある。だからかどうか知らないが、うちの親は、目薬を冷蔵庫に入れている。卵入れのラックの一番右が目薬のホームポジションである。「冷やした方が、さした時、気持ちいいんや。」と言っている。目薬をさした時、目にしみたりすると、「それは目の表面に傷がついててしみてるんや」と教わった。しみた方が効いてる気がするというのでは、ややマゾである。

「結膜炎」ってのが「ケツ捲くれ」に聞こえてなんだかおかしかった記憶がある。結膜炎と言えば、小さい頃、親に「そんなきたない手で目を触ったらトラホーム(トラコーマ)になるよ」と脅されたのがトラコーマならぬトラウマになってたりする。トラコーマはクラミジアの感染による眼病だと聞く。

ロート、ロート、ロート
別にハトは飛ばない。

さて、今年はアレルギー性結膜炎(要は花粉症)対策として、ロート製薬のアルガードCTを導入している。CTというのはCell(細胞)と、Target(目標)の意で、医家向けでも使われている成分「クロモグリク酸ナトリウム」が細胞に働きかけて、かゆみなどの原因になるヒスタミンが分泌されないように抑えるのだそうだ。すでに発生してしまったかゆみに対しては、前回でおなじみの「マレイン酸クロルフェニラミン」がきちんと鎮めてくれるらしい。

「クロモグリク酸ナトリウム」またしても呪文のような名前である。ところで「医家」ってなんだ「お医者さんの家」じゃないだろうなぁ。たぶん、お医者さんが家庭用に処方してくれる薬のことだろう。

お薬は使用上の注意をよく読んで、用法を守らなければいけない。読んでみると「1回1〜2滴、1日4〜6回点眼してください。2日間使用しても症状の改善がみられない場合には医師または薬剤師にご相談ください」とある。

1回に1.5滴ってさせないから、「1〜2滴」よりも「1、2滴」の方が良さげな気がするが、誤って12滴さす人がいるかもしれない。ん、一日に4〜6回?ぼくはせいぜい日に1、2回しかささない。用法を守ってないではないか。2日間使用しても改善がみられなかったとしても、小市民の私は、気休めにでも使いつづけるだろう。幸い、今回は効いているらしい。

さらに読み進むと「症状の改善がみられても2週間を超えて使用する場合には医師または薬剤師にご相談ください。」とある。私はそろそろ医師または薬剤師に相談しなくてはならない。幸いここ数日は症状がすこし治まっている。だが、10ml入りの容器の中は2週間たってもまだ8割方残っている。この残りをどうするのだ。来シーズンまで取っておけというのか?貧乏くさい小市民の私は思い悩むのである。

---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の本 『五感喪失』山下柚実(文藝春秋, 1619円)現代社会でどこかに歪みが生じている私たちの感覚。
当時の世 春分も過ぎた。近所に花見用の提灯飾りが用意されはじめた。
当時の私 まったく違う人生の「私」が夢の中で、母校を訪ねて昔を懐かしんでいた。その学校は現実の「私」は全然知らないところだった。

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目玉の親父は、鬼太郎のお父さんで、水木しげるの作品です。
デューク東郷、人呼んでゴルゴ13は、さいとうたかをの作品です。
私は、「ロート」ってのは「漏斗」から来たに違いないと思っていたのだけど「処方の原型を提供してくれたミュンヘン大学のロートムンド博士にちなんで名づけたもの。」なんだそうだ。