(む}Fresh flesh

Date: Mon, 18 Jun 2001

私にはどこか、生活感が欠けている気がする。でもまぁ、まがりなりにも、独り暮らし歴はそろそろ6年目である。いや、えらそうに言えるものでは、ない。「独り」であったのは本当だが、「暮らし」であったかは、大変疑わしい。ただ「生きてた」だけなんじゃないかという疑いがある。

近所のスーパーにノコノコと出掛ける。特に買い物の予定があるわけではない。しかし、スーパーで何も買わずに出てくるのは、なんだか怪しいような気がする。なので、つい、いつ使うのか分からないコルク抜きとか、鍋とか買ってみたりしようとするが、レジに並ぶ時に、あまりに、周囲の人と、カゴの中の傾向が違うので、すごすごと退散する。

「うむ、ひょっとすると、ネギを買うといい感じかもしれん。」こないだ、実家から送られてきたインスタント博多ラーメンは、スープの素と、麺だけで、具となるカヤクみたいなのが、入ってなかったので、私は、インスタントプレーンとんこつラーメンを食する羽目になったのである。パッケージにも「焼豚、紅しょうが、すりごま、ねぎ等を入れると、一層おいしく召し上がれます」とあった。まぁ、おかげさまで、久しぶりに、ヤカン以外に、ナベがコンロの上に乗った。しかし、調理の途中にザルが必要であることに気づいたときには、すでに麺は茹であがっていた。「茹」でる、の漢字と、ナスの「茄」子の区別に、いまいち自信がないわたしである。

そういや、以前にハンズで見つけた変装セットの「おかん」にも、ニセのネギがついていた。「ネギを買うなら根っこ付きにして、根の部分をベランダで植えて、にせ家庭菜園ごっこなんかして、伸びてきたら、それをまた使って、みたいなことするのだろうか。だとすると、まずは、プランターも買わないといかんではないか。」などと考えていると、またしても、カゴの中身が周囲と違うような気がして、私は、やはりスゴスゴと怪しい冷やかし客として退散するのであった。

「果して、私は、ちゃんと生きているのか」と悩んでいるのか悩んでいないのか自分で分からないまま「ま、そんなこと考えるのは生きてるからだけどね。でも「ちゃんと」って、どうなんだろうなぁ。」と思いながら歩く。料理をしない私は、スーパーから逃げだして、コンビニで買ったお握りとペットボトル入りのお茶を手にして、歩きながら頬張っている。

私の親は言ったのである。「好きにしなさい」でも、「ちゃんとしなさい」
だが、好きにすると、ちゃんとならないのである。

悩める小羊というには、かわいげのないぼくの横を、ミキサー車が通る。「生コン」と書いてある。なにが「生<ナマ>」なのだ。固まる前だから、生なのか?「これだ!と方針がかたまると、それは「生」ではないのでは、ないか。」

そういや、以前は、何も入っていないディスクやテープを「生ディスク」とか、「生テープ」と呼んでいた。今でも「生MD」とか「生CD−R」とか言うのだろうか。生でなくなるのは、焼かれるからか。

トボトボと歩く私の目の前に、某中華料理チェーン店がある。なんとなく腹がへったので入る。麻婆丼と餃子を頼む。

メニューを良く見ると、take out用に「冷凍生ギョーザ」とある。冷凍されても「生」なのか。でeat in用には「生き生きジューシー焼きギョーザ」とある。焼かれてるのに生き生きしてるのだ。ギョーザの活けづくりなんだろうか。

店員さんが「餃子になりま〜す」。「え?餃子になるの?新手のコスプレ?」んな訳はなく、私の思い過ごしである。コンビニで「お箸、使いますか?」と聞かれて、「いや、たしかに、私は、箸は使うが、、、」と同じくらいの私の思い過ごしである。

麻婆丼は、まるでカレーライスかハヤシライスのように、平皿に盛りつけられて出てきた。「こ、これは、丼ではないではないか」「ショーック!」とクレーマーになるほどのことではないし、料理しない私が、お店の盛りつけに文句つけて、どうするというのだ。釈然としないまま平らげる。

釈然としない私は道すがら、缶ビールを買う。またしても、「生ビール」という表示に引っかかる。いや、熱処理してないという意味なんだろうとは、思うのだけど、私の脳裏には、ビールは大麦が材料、で、生。生麦、生米、生卵。なんかカブスカウトで飯盒でご飯炊くのに失敗しちゃって、生煮えの芯のある米を食べた思い出がよみがえる。生卵、久しくそういや、食べてないや。旅館とか行くと、朝、出されるよね。で、生麦ってなんだろう。

と缶ビールの空き缶に人指し指だけのパチキでツッコんでも、彼は「ゴーン」と虚しい音を響かさせるだけで。こんだけ飲んで気持ち悪くなるってことは、俺は少なくとも、生きてるってわけで、でもちゃんとしてないなぁ。と明朝には忘れそうな反省を、備忘録として記す。

---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の本 『永井荷風ひとり暮らし』松本哉(朝日文庫,600円+税)荷風さんの作品、読んだことないのだけどね。日記つけようかしら。○○亭日乗とか言って。
当時の世 小泉内閣のメルマガは私の一万倍の発行部数のようだ。
当時の私 また独りで酔いつぶれてしまった。ま、人と飲んで酔いつぶれて介抱されるよりいいか。でも、反省。

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改めて、インスタントとんこつラーメンのパッケージを見ると、品名「博多生ラーメン」とある。乾燥しても、生なのか。ますます、私は「生」について分からなくなるのである。