[*]Not Knight Industry Two Thousand

Date: Mon, 27 Dec 1999

西暦が2000の大台に乗ってしまうのよりは、体重が80kgの大台に乗ってしまうかどうかの方が、私にとっては問題であるし、無事2000年を迎えたらその年の誕生日には三十路の仲間入りするにも係わらず、大人の振る舞いってやつが、良く分かってないのも問題である。

21世紀がはじまるのは、2001年からだよ。と知った風にいうわりに、結局、ミレニアム騒ぎで盛り上がるのは、日本の宗教性と合い通じるものがあるんじゃないかな?と思う。創業から100年かそこらの企業が、「ミレニアム・プレミアム」などと、つまらない韻を踏みながら、にわか景気にあやかろうとするのは、あんましかっこよくないような気がする。

冬至の前の日、は出張だった。バスに乗って行こうかなと初め思ったのだけど、停留所で待っている人々が寒そうだったので、タクシーで行くことにした。格好だけでいうと、向こうはロングコートの襟を立てている人や、フェイクファーが襟元や袖口についてる人なんだが、こっちは、シャツの上に、ウインドブレーカー。どうみても、端から見ると、こっちの方が寒そうだ。

「○○までお願いします。」
「ああ、この時間、町の中、混んじゃってるからねぇ。バスこないでしょう。」
やばい、運転手のおじさんは、私の苦手なスモールトークのイントロダクションを始めた。いや、私もいい加減、いい歳なんだから、世間話に相槌を打てるようになりたいものである。
「ふ〜ん、それでバス来ないんですか。」

「しかし、あれだねぇ。サラリーマンの人はいいねぇ。もうじき冬休みでしょ。こちとら、年末年始、走りどおしだよ。」
「いや、そんな豪華な冬休み取れるわけじゃないですよ。」
「お客さんの会社では、あれは、どうなんです。2000年問題。」
あれがどうだと言われても困る。

「んん、大晦日から元旦に泊り込みって人も、中にはいますし、お客様の対応するような部門だと、元旦は出勤でしょうね。」
「ほう、なるほどなぁ。で、私なんか大晦日から元旦にかけて、お客さん乗せて走らないといけないんだけど、その辺りどうなんだろうねぇ」
どうなんだろうねぇ。と言われても困る。私は自動車に積まれたコンピューターや、タクシーのメーターの仕組みまで知らない。

「Y2K」なんていう言い方をしたら「きどってやがる」と思われるような気がして、
「まぁ、2000年問題って言っても、コンピューターが、その間の計算に日付計算が入ってしまう場合にだけ起きるものですからねぇ。すくなくともタクシーがいきなり停まったり、暴走したりってのはないでしょうね。」

「それで、お客さん、なんか備えしてるの?買いだめとかさぁ。うちのカミさんなんか、ガスコンロと石油ストーブ買ってきたよ。そうだ、あと、飲料水だ。」
「へぇ。そうなんですか。」
私は、ガスコンロを買ってきたところで、調理するわけではないし、石油ストーブなどなくても、厚着をすれば夜は越せる。それに、かえって火事が心配だ。昼間なら西暦とは関係なしに、御天道様の恵みがあるに違いない。タイマー式の人工太陽ではないのだから。

「やっぱ、電気止まると困るよなぁ。」
「ぼくは、個人的には元旦一日寝てれば、なんでも復旧しちゃうと思ってますけどね。」
それでも、やはり、テレビ局は元旦放送用のバラエティ番組を収録し終わってるだろうし、生番組の予定も組んでるだろう。もしもY2K問題が顕在化したら、放送の復旧と同時に報道特別番組を編成するのだろうなぁ。と思う。

そこから、延々、おじさんは政治・経済・コンピュータ産業の在り方について講義をしてくださったのであるが、
「あなたなんか生まれてなかっただろうから知らないだろうけど・・・」
と言われたあたりから、生返事モードに入ってしまったのでよく覚えていない。

世の中には、西暦と違う暦で動いてるところも多い。無論、先進国でコンピュータを使わないところはないだろうから、どこの国でも問題は起こりうる。でも、問題が起きたとしても、多少不便なだけで、なにも致命的なことは起こらないんじゃないかな。と私は、楽観している。

それにしても、どうして、「大晦日が元旦になるまで起きてるぞ。」と小さい時はワクワクしたのだろう。と思ったら、ちらりとテレビを見たら、ハンディカムかなにかのCMでそういうネタのをやっていた。デジタル時計が1999から2000になる瞬間の方が、やっぱり2000が2001になる瞬間よりもうれしいような気がする。

目の前のものの動きが大きいほうが見てて楽しくなるのは本能かなにかなのだろうか。そして、私は不謹慎にも、致命的でない程度の騒ぎを期待してしまっているのである。

---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS-or-the-day-of-the-longest-night--------
当時の本 『電脳暮らし』水上勉(哲学書房, 1900円+税)齢八十近い水上さんの試行錯誤。はて、ぼくが、よしんば、老人になれたとして、その時の電脳暮らしはどんなものなのだろうか。
当時の世 イタリアにいる知人曰く「2000年問題は、ほとんど話題になりません。ふだんから、停電とか交通機関の故障とか多いから」
火の用心の拍子木が聞こえる。まだ、あったんだ。この慣習。
当時の私 肩凝りひどくて、息がくるしいから、職場いって端末たたくのやめとこう。と休日出勤を控えておいて、街歩きして、自分の部屋でネタをパソコンで書いてるのだから、世話がない。
冬至の私 今シーズン初めて、綿入りの上着を出したら、昼間に出張だった。電車の中で一年のうちで一番低い太陽の日光と、車内暖房を受け、汗が滝のように流れた。なにか間違ってるような気がする。

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