(む}vita sexualis

Date: Mon, 19 Jun 2000

あの手の本。と言っても、あの「手の本」ではないから、別に、手タレ(CMとかで手だけ出演されるタレントさん)の方の写真集ってわけでなし。ん、そういうのって商品化難しいのかな。つうか、やはり、手onlyだと、フェティッシュな感じがして、一般化が難しいのかもしれんなぁ。でも、手タレの人って、普段、すごく気をつかって手作業してるのだろうなぁ。しかし、手って、改めてマジマジ見ると、妙な形だよなぁ。みんな見慣れてて気に止めないのかなぁ。

つまり、実は「あの手」の本なのである。つまり、クッキーも煎餅もなくというか、梅雨なので雨は降るけど、上空の気温が下がると雹は降るかもしれんね。ちゃうちゃう。というか(なにやらアラレと絡めたノリつっこみらしい)、そのキレイな女の人があられもない格好をしている本のことである。

ちなみに、手元の辞書によると、
あられ[霰]
1.水蒸気が氷の粒になって降るもの。雪と雹の中間。
2.餅を賽の目などに細かく切り、炒ったり揚げたりしたお菓子。
とある。

雪と霰と雹の関係については気象庁に問いただして頂くとして、あられはやっぱりトヨスか、マンガ家の鳥山明氏に問いただして頂くとして、おかぼだか陸稲だか言うのは現物知らんけど、その、なんだ。要はあの手なのだ。

と長い前フリを書いてみたが。ぜんぜんフォローになってないのね。(ま、フォローって元々、「ついていく」のだから後追いなんだが。後悔先に立たず。って、そのままやん。)

この際、書いてしまうのだけど、私が初めてゾワゾワしたのは、14才の頃に、親父が得意先の新聞屋と付き合いで取ってるスポ−ツ紙のテレビ欄の下の番組紹介で、誰だか忘れたけど女優さんが、時代劇で白装束で川の中で殺陣をやってるシーンが、例の新聞特有の網点の写真で出てたのだけど、それだ。ヰタセクスアリス。(ついでに書いちゃいますけど、番組欄を一枚捲れば、ゾワゾワな小説があるのを発見したのは数日後です。やっぱ14才前後はヤバイね。)

でもって、親父が拾ってきて、それとなく置いてあったのか、隠してたのか、ヤンジャン(ヤングジャンプ@集英社ね)の表紙でかわいいおねえさんがビキニで三人、仲良く抱き合ってたのね。水爆の威力は、俺、知らんけど、「なんで、こんなにあられもないの」と思ったのね。(ビキニという単語は水爆実験のショックの大きさなみのショッキングな水着ってのが元になった単語と聞く。だとすると、堅い人だと不謹慎だって怒るよね。が、元の意味はもうない。)

続くねぇ。前振り。

なんてことを思い出しながら、「あの手の本」を入手すべく、出掛ける私なのであった。

さて、その手(どの手だ)の専門店に行くでなし。っていうか本屋にたどり着く前の街の中ですれ違う女の人の中にもあられもない(私基準)人もいたりする今日この頃。でも、普段利用してるところと店を違えてみたりするところが私の情けないところである。きっと若かりし私なら、チャリを飛ばして(飛ばないが)隣町まで行くところだ。

タイトルと表紙ばかりチラチラ見ながら、中を想像する。(立ち読みしようか。)いや、前に書いた気もするが、見えないところがその、なんだ。価値なんだ。と力説しても仕方がない。しかし、想像というか期待は概して破られるものである。と考察しつつ、チラリとレジ方面に目をやると、あられもなくないおねえさんが担当してるのである。

これは、少々困難な状況だ。どうする。私は既にその手の本を手にしてしまっている。これを棚に戻して素知らぬ顔をするのも偽善のような気がする。ここは、お堅い本も一緒に手にして、「領収書お願いします」と、さも、なんかの資料のふりをするのか?

いや、いかん。逃げちゃだめだ。ここは正面切って向かい合わなければならん試練なのだ。私はもう14才ではないのだ。って表紙の彼女は18、9なのだ。いかん。(というか、いかんどころか、試練でもなんでもないのだが)

と0.05秒程度の苦悩の末(って私は『東京大学物語』の村上直樹ではない)、レジのPOS(Point Of Sale)のバーコードリーダーで読みやすいように裏表紙を上にしてレジの机に置く。決して表紙を上にするのが恥ずかしいからではない。

ところが事件は起こるのである。怪しい男どもの度重なる立ち読みによってバーコード部が損傷していて読めないのである。何度やろうと、レジは「ピッ」という軽やかな音を出さない。そして、私の後ろにはどんどん順番待ちの客が列をなす。やばい。

レジのおねえさんは、ついに音を上げる「店長ぉ〜」そして、その店長とおぼしき人物がやってきて、「お待たせいたしております」と一言断りを入れて、バーコードリーダーを操作するが読めない。

店長は手入力に切り換えることにした。しかし、店長。その問題の価格が表紙や裏表紙のどこに書いてあるか分からない。あやしい本を裏から表からなめ回すようにして定価表示を探す店長。というか、そこも擦れて消えかかってるらしい。店長曰く「商品が損傷しておりますのでお取り替え致します。お待ちください。」

いや、私は、先にこやつの価格は確認済なんだ。なんなら教えて差し上げてもいいのだ。それに、私にとって重要なのは中身であって、表紙ではないのだ。店長が代替品を探しに怪しいコーナーに行ってる隙にどんどん順番待ちの客は溜まる。私の心臓は本の内容と関係なしにバクバク心拍数を上げる。

「大変ながらくお待たせ致しました」と、恐縮と嘲笑の混じったような変な顔で、店長はピッとバーコードを読み込ませた。私は既に、問題の項目を調査できないくらいにトホホに疲れ果てていた。

このお話は実話に基づいたフィクションです。

---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の本 『赤瀬川原平の今月のタイトルマッチ』(ギャップ出版, 1500円+税)中身を読まずに本のタイトルと表紙だけ眺めて書く書評。かくいう私も中身を読まずに、この本を買っているのである。おもしろいに決まっている
当時の世 日曜日はいい天気。父の日。来週だかの選挙の車はやかましく、強迫神経症のように候補者の名を連呼し、手を振り続けるウグイス嬢。コンビニの入口には皇太后さまへの哀悼の一文の貼り紙がされていた。
当時の私 久しぶりに日曜日お休みいただいて散歩した。部屋にいたら、ペリカンとNHKの襲撃を受けた。ペリカンさんはAIBOバッグ届けてくれた。NHKさん、私はテレビを持ってないのだ。ビデオはあるけど。

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