[*]Walker's high

Sun, 21 Sep 1998

休みの日には歩け歩け大会。主催者兼参加者約一名。

天高く、馬肥ゆる秋

私は牧場主でも競馬好きでもないので、この時期、本当に馬が肥えるのかどうか知らない。私自身が肥えているのは知っている。前に履いてたズボンが入らなくなっている。だからといって、ダイエットのために歩いているのではない。全くもってそうではないとは言い切れないあたりが苦しいのだが、好きで歩いているのである。

秋の天は何故高いのだろう。雲のある層の高さが他の季節よりも高いのだろうか。雨が降る前の、どんよりした雲がかなり低そうなのは分かる。でも、夏の入道雲なんかはかなり高そうだ。時折高くなりすぎて、頭を打って、鉄床雲になって、打った頭が痛いのかお怒りになって雷を鳴らす。

あ、雲が高いのじゃなくて、空が高いのか。澄んだ青。

空はどうして青いのか?

「海の色が写っているから」と言われても、陸の上でも空は青色。いや、空は空色。
そらそうだ。と駄洒落を言ってる場合ではない。
いや、場合ではないというほど切迫した事態ではない。

水は水色か?すくってみても水色をしていない。無色透明。赤っぽかったらそれは、サビか赤潮か血が混じったか、サヨクの水だろう。あざやかな青色をしてる水があるとしたら、銅イオンが溶け出てるか、図工の筆洗いバケツを群青色を洗ったあとにかやしたあとだろう。

水色と空色ってちがったっけか?久しく絵の具なんて見ないから、思い出せない。でも、水色と空色が同じだったら水平線がうまく塗り分けられないから、たぶん、違うのだろうなと思う。

子供向けの科学教室のようなのによると、

「空気が青以外の色を吸収してしまうから空は青いのだ。」

と書いてあった。確かに、遠くに見える山は青っぽく見える。でも、上の説明じゃ、「空は空だから青いんだ」という理屈でもなんでもないものを、「科学的」な皮を被せて言ってるだけな気がする。子供を「科学的」にだましては、科学好きな子は育たないのじゃなかろうか。いや、だます喜びを憶えるかもしれない。

雲がものすごい速さで動いている。上空の風が強いのだろうか。ここから見てあんな速さで動いているということは、実際、ものすごい速度に違いない。雲がすごい速さで動いていると、なんだか「地球は回ってるな」と思う。反対側の電車が動いてるだけなのに、自分の乗ってる電車が動いているような錯覚をするようなもんだろうけど。

その雲よりも速く。雷とはまた異質な爆音と共に、鳥ではない鉄の固まりが空を飛んでいる。戦闘機だろうか。こちらに腹を見せて飛ぶ。F16かな。くわしくないので知らない。音は空気中で圧力の違いとして縦波として伝わる。だから、音の発信源自身が音速を越えて飛ぼうとしたら、自分の出した音を越えなくてはいけない。自分の前に、濃密な空気の壁ができるらしい。それを破る時に、すごい音がするのだと聞いた。そうか、本当に空を引き裂いて飛んでるんだ。

音速よりもかなり遅い速度で、テクテクと歩く。別にテクテクと音をたてているわけではない。私はタラちゃんではない。ずっと上を向いていたせいか、ずっと歩いていたせいか。頭がクラクラする、でも気持ちいい。ランナーズ・ハイならぬ、ウォーカーズ・ハイだろうか。あるいは単なる日射病か脳貧血。

---MURAKAMI-TAKESHI-UP-TO-DATE------------------------------------
当時の本 『歩くひと』谷口ジロー(小学館文庫, 429円)どうも人ごとではないような気がした。「歩くひと」はおかしい。おもしろいけどちょっと変。
当時の世 秋なのに、週末けっこう暑かった。風は強かった。
当時の私 夜中に何度も目が覚める。

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