(む}Sunny side up

Date: Mon, 30 Sep 2002
「本日は、こちらでお召し上がりですか?」

と聞かれても、召し上がるっていうほど、お行儀のよいものでもない。かといって、「持ち帰りで」って言うにも、実は、うちに帰り着く前に、パクついてしまうに違いないので、持ち帰るわけでもない。Take outなら、お店を出てしまえば、こっちのもんだっていうような気がするのだけど、「お持ち帰り」は、なんだか家まで大事に持って帰らなきゃならない気もする。で、業務用のスマイルなのは分かりきっているのだけれど、なんだか照れてしまって、伏目がちにメニューを指差して、「これと、こんだけ。」

月見バーガーを頬張りながら、ふと思う。

「月が見えない。」
「月見そばだか、うどんだかの場合は、黄身を月に見立てて、白身やらとろろやらが雲なわけだよなぁ。」
「日本情緒的には、雲が必要なんよ。」
「澄み渡った空では、月がとっても青いから。」
「月の光って、なんだか冷やかだね。」
「いや、単にその夜が寒かったか、あなたの心が冷えていたかだろう。夏の熱帯夜に、月が出ていたからと言って気温が下がる訳がない。」
「目玉焼きって、英語だとSunny side upとか言うらしいね。」
「ほう、太陽か。すると、白身はコロナ?」
「黒目な人が、あれを目玉焼きだというのも変じゃのぉ。鬼太郎。」
「とおさんの姿焼きだと、もっとぞっとしませんね。」
「うちの亡くなったばあちゃんは、焼き魚の目玉が好物だったそうです。」
「目玉の周りにはDHAが豊富で、頭に良いらしいぞ。」
「だけど、ばあちゃんは、しっかりとボケてたそうです。」
「しっかりとボケてるってのも、妙な言い回しだ。漫才師でもないのに。」

あんまり頭に血を巡らすと、消化に良くない。ぼくはSサイズで買ったOJで、口の中のものを流し込んだ。

そういや、最近は、まん中のサイズをRサイズと呼ぶようになったらしい。日本語的にはS、M、Lを聞き分けるより、S、R、Lの方が聞き分け易いのに違いない。日本語的にはRとLの区別は容易なのだ。レギュラーってことだろうか。牛丼屋だと、一番小さいサイズが並盛りだ。敢えて書くなら、R,L,LLのラインナップである。かと言って、マックと吉野家をはしごして検証するわけには行かない。無論、二軒目が、松屋や、すきやならよいというわけでもない。

外は雨が降っていた。天気予報のおねえさんだか、おじさんだかが、降水確率から折り畳み傘を持って出掛けた方が良いようなことを言っていたような気がする。果して何%を越えるとフルサイズの傘を持ってでかければ良いのだろうか。そもそも折り畳まない傘はあるのだろうか。いや、普通の傘は畳むけど、折れないのか。折り畳みでもないのに、折れた傘は使いづらい。「そんなに屁理屈をお言いでないよ。」と、頭を冷やせと言わんばかりに、私の折り畳み傘は雨漏りがして、私の頭を濡らしている。

この頃、周りで、「…しそうな勢いで」という表現を使っている人が、結構いるような勢いである。だけど、「辞めそうな勢いで」とか「止まりそうな勢いで」と言われると、ちっとも勢いがないような気がしないでもない。「しないでもない」と言われると、「しない」のか「した」のか、分かったような分からんような気がしないでもない。無論、動いているものを止めるためには、それなりに減速のための勢いがあるのだから、勢いはあるのかもしれない。

この頃、周りで、「それって、…って話?」という言い方で、相手の言っている内容を確認しようとする人が多い気がする。「それって、…って言ってる?」という表現もよく聞く気がする。

「それって、…って話?」
「その質問は、…って言ってる?」
「言ってる話が、よく見えないんだけど?」
「それって、私の言ってることが話になんないって言ってる?」
「言ってない。言ってない。よくわかんないって話。」

相手に話を伝えるのは難しい。話が良く分からなかったっていう話を相手に伝えるのも、また難しい。

私は、端で起こっている議論のようなそうでもないような話を、ぼんやりと聞きつつ、

「あれは、やはり、月見バーガーではなくて、単に、ベーコンエッグバーガーなのではないか。」

「やはり…なのではないか」という、確信というには疑わしい仮説に至るのだった。

---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------
当時の本 『新・中学生日記』Q.B.B(青林工藝舎,本体980円+税)人生でもっともヘボヘボな時代。いや、私は未だにヘボい気もするが、、、久住ブラザーズの放つ封印された中学時代。
当時の世 巨人って優勝したの?
当時の私 なんか世界がしっくりこない。もやがかかった感じ。

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