Only oneDate: Tue, 25 Sep 2001 目の前を虫が飛ぶ。たぶん、アル中の幻影ではないと思う。手を伸ばして握る。リアルな中の蚊は手の中で潰れて、鮮血というには古いおそらく、私のであろう血がかすかに飛び散る。そんなに満タンにしてフラフラと飛ぶから、酔っている俺にまで捕まるのだ。 人体の6、7割は水分だそうで、その多くは血液などの体液であるという。その中で、蚊が吸う量など1立方ミリもあるかないか。その程度の献血に、私はめくじら立てるつもりはない。どうして、その量を鑑みて余りあるかゆみを奴らは残していくのか。それが謎なのである。 幼い頃、親戚のうちに行って、セミの幼虫を取ろうと、雑木林の中を駆けめぐっていたら、全身50箇所余りを蚊に食われた記憶がある。羽化のために苦節何年、地下からはい出した幼虫を捕まえて、自分ちで羽化を見ようというわけだ。果して、無事捕らえて、ソファにつかまらせて、羽化の瞬間を見た記憶もあるが、それが同じ日かどうかは定かではない。 蚊は皮膚呼吸で発生する二酸化炭素をたよりにして、近寄ってくるという。私はあんまり息づかいが荒い方ではないと思っているが、皮膚呼吸は荒いのか、しばしば蚊の被害にあう。家族の中でも被害に遭いやすい。母は、「私なんか、血、うすいから、あんまりおいしくないねんわ」と言うが、さすがに台所で一人で立っていると襲撃されるらしい。彼女を襲った後の蚊を叩きつぶすと、なるほど、血の色がうすい。鉄分が足らないのである。 私の父は、料理になんでもソースをかけがちである。野菜なんかには、マヨネーズを山ほどかける。もう和え物になってしまう勢いである。その父は、ケガにはなんでも、ムヒを塗布しがちである。一歩譲ってオロナインが適用されることもあるが、すくなくとも私は、多少の擦り傷があるにも係わらず、タンコブにムヒを塗られた記憶がある。あと鼻づまりにと鼻孔内にムヒを突っ込まれたのと、眠気防止にと、こめかみにムヒを塗られた記憶もある。 職場の健康保険組合の家庭用常備薬の斡旋のチラシを見ていると、中に、不思議な表記がある。「ムニ(ムヒの同等品です)」なんじゃこりゃ。もしや、パチモン?しかし、製造元は、ムヒと同じく、池田模範堂である。 池田模範堂のHPを見にいってみると、「ムヒ博物館」なる歴史もののコンテンツがあり、そこを見ると昭和20年代にはムヒの偽物が出回ったとある。果して「ムニ」はセルフパロディなんであろうか。池田模範堂のHPは「ムヒ」のマークが微妙にゾワゾワ動く壁紙で、なんだか、私の「む」がゾワゾワするのと親近感を覚える。旭化成が「イヒ」と言おうが、三菱電機が「ミテ」と言おうが、「ムヒ」の方が、なんだか分からなさは勝っている気がする。ムヒ売出しの頃、各地の鉄道沿線に「ムヒ」という名前だけのホーロー看板を出して拡販していたらしい。まさしく看板商品なんである。 そんなHPの商品紹介のコーナーに行っても、一切、「ムニ」については語られてはいない。なぜだ。ムヒの品名の由来は「無比」だと聞く。もしや社内とはいえ、同等品の存在は「比べるもの無し」の名を否定するために、陰においやられているのではないか。 実際にムニを入手する。パッケージには「使用感の良いクリームです」「特納用」とある。塗り比べてみても、たしかにムヒ同等である。私はどうやら違いが分からぬ男である。私に分かるのはムヒは18g入りで、標準価格550円なのに対し、ムニは15g入りで斡旋価格260円であることである。 有効成分表を見てみても、100g中、
と、同等である。ところで有効成分を合計しても、7.4gにしかならないのだが、残り92.6gはなんなのだろうか。 悩みを晴らすために、池田模範堂のお客様相談室に電話しようと試みる。相手は富山の薬売りである。富山にかけるには、マイラインの遠距離の登録はなににしておけばよかったのであろうか。ま、一回きりだからいいか。 「あ、あの、ムニっていう製品について、おたずねしたいんですけど」 な、なに、もしやと思ったが同じものなのか。 「あの、ムヒの場合は商品名の由来が、比べるものが無い、無比から来てると聞きますが、ちなみに、ムニは?」 ガチャ。 私の影は、私につねについていて、私の影は、私にしかついていない。ムニはムヒの影であり、おそらく会社向けに影で努力して、実質ムヒの普及を影で手助けしていたのであろう。なんて健気なことであろうかムニ。だが、しかし、おおよそほとんど使っていないムヒ&ムニのパッケージを二つも在庫して、私はどうしようというのであろうか。ま、いいか。 ---MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS------------------------------------ オロナインは大塚製薬の製品です。 |