(む}Black light

Date: Mon, 28 Aug 2000

私は利用したことがないのだが、ホテルなのに、「ご宿泊」以外に、「ご休憩」という料金が設定されているところがある。そこの看板を見ていて、「全室ブラックライト設置」とあって、なんのことじゃろか。と思ったのである。

もしや、あの有名な青い二頭身のロボットの白いおなかのポケットから、「ブラックライトォ〜」と取り出される未来の道具なのかもしれない。「どうやって使うんだい?」「これは、照らした所の光の粒子を打ち消して、暗闇にするんだ。」「へぇ、すごいや。ところで、何に使うんだい?」「さぁ?」

ところで、彼の好物はドラ焼きであるが、ドラ焼きのドラは金属の大きな円盤状の楽器の「銅鑼」に由来するのであって、彼の名前に由来するというわけではない。あやうくタイムパラドックスの罠に陥るところである。全国のよいこのおよそ半数は、奴の好物だからドラ焼きなのだと勘違いしてると思われる。少なくとも、私は最近までそう思っていた。

そして、彼は耳はないけど、猫型ロボットらしいのだが、だからと言って、「ドラネコ」が由来というには、ふてぶてしいどころか、過剰にかいがいしい。やはり、丸い体型が銅鑼みたいだからなんだろうか。あの全体が大きな一つの肉球のような手足は、ぷにぷにしてるのだろうか。

さて、「光あるところに闇あり」などという言葉がある。果たして、影は光のあたらないところに出来ているのだろうか、ひょっとして、光が、懸命に闇をなんらかの方法で消して、明るい領域が出来ているのではないのか。夏の花火を見ると、光は刹那の輝きだと思う。その辺りについて考え始めると、夜眠れなくなるので、ほどほどにしなくてはならない。

照らした所が、暗くなるライトではないとすると、なんだろうか。ハタと思いつく。「そうか、日焼けマシンだ」いわゆる「タンニングマシン」なんだろうか。照らした身体が黒くなるのだ。しかし、それでは件の施設のお客様はガングロギャルと陸サーファーのカップルに限定されてしまうではないか。それもおかしい。

平均的な身体能力として、黒人の方が優れているのは、統計的にも有意差があるらしい。でも、だからと言って、日焼けサロンに通ってまで褐色の肌をするのが良いかというと謎である。というか、肌を焼いたところで、本人がひ弱ではどうしようもない。んん、色黒になると、本人にも自信が沸いて来るのであろうか。ところで、私は「美白」という単語が大嫌いなのだ。いや、色白できれいな人がいるのは認めるが。

よく分からなくなった私は、東急ハンズの照明器具売り場に、ブラックライトを求めて出掛けたのである。私の最寄りの登戸からだと、新宿と町田は、どっちもどっちだ。それにしても、どうして、小田急の踏切はどうしてあんなに開かないのだろう。そして、どうして、小田急は夜遅い時間でも混んでるのだろう。七不思議である。残りの五つは知らない。

久しぶりに赴いた町田は、なにやらハンズの横にでかいビルがくっついていた。おたく御用達な福家書店は無くなっていた。メディアバレーだかいうパソコン店はなんでか100円ショップになっていた。ハンズの地下は相変わらずTUTAYAだったが、一階はスーパーじゃなくて、なんだか、ヒロヤマガタとかいう有名な人のリトグラフ展覧会をやってた。

使用前 使用後

で、パーティーとか店頭のディスプレイ用の照明の所にそのライトはあった。確かに、その電球や蛍光灯の表面は黒い。だからと言って闇をあまねく広めるものというわけでもなさそうだ。

ショーケースの中で実際に光っているブラックライトは、黒というより、どちらかいうと、紫色をしている。これは、ライトのガラスを細工して、近紫外線を出すようにしたライトであるらしい。なんとなく、「飛んで火に入る夏の虫」現代版の誘蛾灯や、殺菌ランプを思い起こさせる。いや、思い起こさせるどころか、赤外線を出すコタツやヒーターのランプが赤く見えるのはあれは、赤外線の近くの赤色が出てるわけだから、つまり、こやつは紫外線を出しているに違いないのだ。

純然と、紫外線のみ出されると、おそらく、可視光領域を超えられると、我々の目には見えないのだろう。すると「おらぁ!ろくに点かないくせに電気代だけかかりやがって!」と強面な方からクレームが来るかもしれない。だから、紫色に見えるのだろう(そうか?)実際、特に明るくないのだが、普通の蛍光灯と同じくらい電力は消費するのだ。

この領域の紫外線は、蛍光物質を光らせる特性があるので、機械などのシャシーに蛍光物質を塗って拭き取り、微小な傷があれば、そこに蛍光物質が毛細管現象でしみ込み、ブラックライトを当てると光る。そういう、探傷灯としての用法もあるらしい。また、紫色よりも屈折率が大きいので、宝石の鑑定などにも使われるそうだ。

先の日焼け用のランプなんかも、やはり、近紫外線ランプの出力のでかいものらしい。もともとは、高緯度地域に住む人々が日照時間が足りなくてビタミンDの合成にもことかくということで開発された医療器具だという噂だが、本当だろうか。医療器具だとしたら、医者の指示なしに、日焼けサロンに行ってはいけないのじゃなかろか。医師の指導に基づかず、間違って遠赤外線ランプなんかがついてたりしたら、しっかり身の芯まで火が通ってしまう。

試しに、一本購入して帰る。金を払って物を持って、駅までたどり着くまでにもう、「こんなもん、自分の部屋に持って帰ってどうするんだ」と思ったりしたのだが、「まぁ近紫外線でも、弱い殺菌効果くらいはあるかもしれんなぁ」などと心の中で苦しい言い訳をする私であった。(殺菌ランプは、その波長の遠紫外線を出すように特殊加工されてるそうです。通常のガラス管だと、屈折率の都合で殺菌効果の高い遠紫外線は管を透過できないらしい。)誘蛾灯と同じらしいので、虫が寄ってくる効果が発揮されないよう祈るのみである。

幽霊の正体みたり掛けタオル

夜を待って点灯する。あやしげな暗い紫色の空間ができる。そして、主に白系の布地に光るものが多い、蛍光染料やインクが使われた布や本のカバーもあやしく光る。今ではもうないのかもしれないが、洗剤などで、白さを光らせる(あるいは、ごまかす?)ために、蛍光剤が含まれてるものがあるそうだ。男の人のワイシャツとか、女の人のピンクやオレンジ系やパステル系の服でもブラックライトを当てると、怪しく蛍光を発するものと思われる。

日焼けや殺菌を狙ったわけではないが、自室で服を脱いで照明を落として、ブラックライトを点灯してみる。部屋のどこかでついた糸くずが、やはり、染料や洗剤の影響だろうか、チラチラと体のあちこちで怪しく小さな蛍光を発する。気分はホタルイカかヤコウチュウである。いや、ホタルイカやヤコウチュウの気持ちは私にはわからんが。

本の虫、夜光型

キャップを取るときに誤って手についた蛍光ペンの跡が怪しく光る。いや、それよりも、部屋で裸でブラックライトを片手に掲げた私がなによりも怪しいにちがいない。蛍光染料が含まれたパンツなんか履いて、このライトを点けると、ホタルごっこが出来そうだが、さらに怪しくなるのは自明なので、自粛した。まぁ、私が怪しいのはみなさんご存知だと思うが。

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当時の本 『猫だましい』河合隼雄(新潮社,1400円+税)心理療法家の先生が、昔物語に見る、たましいの顕現としての猫。
当時の世 毒でなければ、よけて食べればいいのにね。
当時の私 ちょっと節制しようと思う(いつも思うだけだが)

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掲載した画像は、デジカメがスローシャッターモードになってしまったため、やや露光時間が長くなっていると思われます。

今回、私の部屋についている蛍光灯がドーナツ型なのに、そのタイプのブラックライトが見つからなかったので、結局、直管タイプを蛍光灯ユニットごと買ったので、高くついてしまった。いわゆる常夜灯のナツメ球タイプ(\300)も買って見たけど、いまいち、出力が小さいのか、蛍光作用は弱く、なんだかいつもより暗い常夜灯って感じだ。なお、ナツメ球というのは千円するわけでなく、漱石さんの親戚が作ったのでもなくて、たぶん、棗(ナツメ)の実に形が近いからだと思われる。右図:決して、寿命の来たグローランプではない。

あの、有名な青い二頭身のロボットは、藤子・F・不二雄さんの『ドラえもん』ですが、なにやらリンクするのにも、申請して許可番号をもらわなければいけないらしいので、ここでは控えておきます。