I wish… 星に願いを

その夜、私が丑三つ刻まで起きていたのは、別に件の流星群を見るためではない。単に晩に飲んだお酒が睡眠薬にならずに覚醒剤になっただけの話である。

丑三つ刻と言えば、草木も眠り、お化けが出てくる時間である。昔、夜更かししていると、足がどんどん淡くなっていって、ユーレイの仲間になってしまうぞぉ。という感じの絵本を見てゾクゾクしたのを思い出す。

良い子の私は、夜鳴き蕎麦の鳴き声というか、ラーメン屋のチャルメラの音が聞こえると、「きっとあれは、ラーメン首領の手の者が、夜更かししている子供をさらいに来たに違いない。早く寝ないと。」と思っていた。ラーメン首領ってのは良い子な私の創作で、仮面ライダーストロンガーに出てきた「一ツ目タイタン」と少し似ている怪人で何故か屋台を引いていた。火の用心の拍子木のおっちゃんも、その手の戦闘員に違いないと思っていた。

長じて酔い大人な私は、仕方がないのでコンビニに夜食を買いに出かけるのであった。夜空を見上げるとオリオン座。昔、星座を決めた人達は、えらく想像力にあふれているか、強引な解説者だったのではなかろうか。私には、オリオンはどう見ても、せいぜい、鼓(つづみ)か奴(やっこ)さんである。他の星座にいたっては、なんでそれがその形になるのか言われてもまだ分からない。だから件の獅子はどこにいるのかわからない。

本件とは直接関係ないのだが、件(くだん)というのは人面牛身のお化け(ギリシア神話のミノタウロスが反対になった感じか?)で、未来を予知する能力を持つが、生まれて数日で死んでしまうのだそうだ。なんか漢字を見たあとで作ったくさい妖怪である。手元の辞書には載ってない。

図1

塾のお勉強をやってた良い子の頃、理科の問題でなにかの星座が出ている絵があって、「では、この風景の季節はいつでしょう?」という問題があった。その中にあって、オリオンは定番中の定番だから、一般にも知名度が高いのだと思う。先生の問いにある子が答えた。
塾生「冬だと思います。」
先生「どうして、冬だとわかったのかな?」
塾生「絵の中の木の葉っぱが全部散ってるから。」

コンビニにたどり着き、小さい弁当と大きなウーロン茶のペットボトルを買う。
店員「おぉ、こんな時間にどうしたの。」
客A「あっちの田んぼんとこに行って、流星群見ようと思って、買い出し。」
店員「そんなにスゲェの?」
客A「今日が最大だって」
店員「マジで?俺、今日朝まで、ここでバイトだよお」
後ろに私も含めて他の客が待っているというのに、私語する店員とその知り合いらしい客。ファーストフードなんか行っても時折、調理や注文とは全く関係ないお喋りをひたすらしている店員がいるが、ああいう状況はあまり好きではない。でも、まぁ、指導は店長なりマネージャーの仕事だろうから。捨ておく。

その日、最大を迎える予定の獅子座流星群は計算違いで、日本では流星雨というほどには降らなかったようだ。田んぼに見にいった彼らは果して、翌朝、そのまま学校に行ったのだろうか。そして、「スッゲェ感動した」と軽く言ったのだろうか。それとも、「大したことなかった。徹夜して損したよぉ。スゲェねみぃ」と言ったのだろうか。

昔の人は、その時期に流星が降ることを経験的に知っていたと思う。そして、その風景に原宗教的な信仰を持っていたのではないだろうか。現代の人は、その時間に流星が降ることを計算により事前に予知され、前評判の高いショーを見に行ったにも係わらず、期待したほど盛り上がらずに不満だったのではないだろうか。あるいは、予定通りに感激したのではなかろうか。

流星群は見栄えがする。しかし、毎晩見上げる星がズイズイと回っていることだって、えらく不思議だ。夜が来て、また朝が来る。それを考えてしまうと怖くて夜も眠れなくなりそうだと思ってみても、やがて私は眠りに落ち、朝の目覚めを迎える。朝起きると、「あ、ぼくは、今日もまた生きてる」と思う。

コンビニの帰り道、夜空を見上げると流れ星一つ。わざわざ防寒着を着こんで田んぼにでかけなくても見えますよ。昨日から合わせて三つ目かな。私は、
「明日、いや今日の朝もちゃんと目覚めますように」
とお願いすることにした。にも係わらず、私は、その日、仕事に遅刻した。確かに6時に目が開いて、しっかり朝刊にも目を通したというのに。
「二度寝しませんように」というお願いもしておくべきだったのかもしれない。

—MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS————————————
当時の本 『浮気人類進化論 きびしい社会といいかげんな社会』竹内久美子(文春文庫, 486円+税)サルがヒトに進化したのは「浮気」のせいだった。動物行動学から読み説く「さまざまな結婚」。「利己的な遺伝子」と”selfish gene”、「進化」と”evolution”の語感の違いに要注意。浮気する人はDNAのせいにしてはいけない、繁殖とは関係ないのだから。じゃ、隠し子持つ人はええのんか?


当時の世 流星を見に行って橋から落ちて亡くなった方もいるらしい。そんなに慌てて、自分がお星さまにならなくてもいいのに。
当時の私 その日飛び交った流星群情報の数は、流星の数よりも多かったと聞く。

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