Not an electoric cord 雀は三羽止まらない

「あつはなついねぇ。」と言うのは、すでに使い古されているジョークだが、たまに梅雨の合間の快晴の日があると、日差しがきつい。そのせいだかどうだか知らないけれど、手足を出したファッションをする人が多い。いや、手足だけでなく、胸元や背中もお出しになっているご婦人も多い。

たしかに、胸の谷間で汗が滝のように流れるのは困るのだろうが、ミニタオルを襟首の所から突っ込んでワシワシと拭うのは、ご勘弁願いたい。せめて、ポンポンと押さえるくらいにしておいた方がいいのではなかろうか。

と、話が胸方面に行きかかっているが、今回の話題は脚である。

近頃は若い世代を中心に生足なるものが流行っているせいで、ストッキング業界では売上が落ちて困っているそうだ。「ナマアシ」なる言葉は響きが「生々しい」ので、女好きであるが女怖い病でもある私はストッキング業界の人ではないがほとほと困っている。

ストッキングを履くことは、それによって、全体の形状は自然の素材である脚をいかしつつ、そのサポート力により物理的に、光沢によって視覚的にメリハリがつき、適度にしまって見える。また、脚表面にテクスチャーをはりつけ、人工感が出せる。いわば、人工の皮膚と置換することによる、都市に適応したサイボーグ化行為だと言える。そこへニョキッと生足が出てくると制御の難しい自然の力の脅威を感じて怖いのではなかろうか。と、勝手に理論化してみる。

こないだ、隣で仕事をしていたA子さんが、「あ、伝線。」とつぶやくので、私は「電気、通すのんですか?」と、ひとボケしたのであるが、審判、ノーギャグと見て流されてしまったので、「それとも伝染るんですか?」という2段目はそっと胸の内にしまいこんだ。

「しかし、女の人はどうして、ズボンの時(パンツというと下着のパンツのことを連想してしまうので、つい、ズボンと言う)もストッキングを履くのだろう。謎だ。」と、こちらもつぶやいていると、服との滑りであるとか、ふつうの靴下にすると、足にぴったりした靴が入らない。とのことであった。勉強になる。

その回答を聞きつつ、ぼくはぼんやりと、「なんで、靴下は靴よりも上にあるのに靴下なのだろう。靴の内側に着る下着だというのなら、靴下を見せるのは下着を見せるということだから、ふしだらだなぁ。」「女の人の足と靴の寸法公差はストッキングの布一枚分しかないのか。ますますもって、ブカブカの靴を履いている女の人というのは解せんな。」と思っていた。

3日に2足、伝線するとして、1ヵ月で20足。1足500円として月1万円?なかなか巨額の消耗品である。「こりゃ、働く女性には伝線手当を支給しなければならんな」と私は思った。

この文章を打っていて、日本語変換で「伝線」と一発で出ないので、私は、「伝染」と打って一字後退して「線」を打っている。つまり、このパソコンさんにとって、伝線は、頻度が低いと見なされていると言えよう。

しかし、実際、頻度は高いのだろう。コンビニやキヨスクなんかで、レジのすぐそばにストッキングの商品棚を良く見かける。女の人にとっては、日常であるかもしれないが、私は一応、男であるから、滅多なことではストッキングを購入することはないので、非日常である。だからレジで順番待ちで並んでいてその商品棚の前で妙に照れる。

中学生の頃、駅の改札から、真っ直ぐ駅構内のショッピングセンターを抜けようとすると、途中で下着屋さんのショーウインドウがあって、中に蛍光灯が仕込まれて光る胴体や脚だけのマネキンがボディスーツやストッキングを着ているのの前を通らなければならないのが恥ずかしくて、わざわざ回り道したのを思い出した。

うちの母は、歳のわりに肌がスベスベだと自慢しているのだが、唯一、足の裏だけはガサガサである。そのため、ストッキングは履いた瞬間に伝線するのであまり履かないと言ってた気がする。それに、毎日配達の仕事をしているので、ジャージにノーメイクのことが多いから、たまにスカートを履いてると、得意先のおばちゃんに「奥さんおめかししてどうしはったん」と言われる始末であった。

親戚の叔母さん(つまり母の妹)にも、「ねえちゃん、ちゃんと化粧して、女らしいとこ見せとかんと、息子おかしくなるよ」と忠告されたらしいが、すでに手遅れであったらしく、私の女性に対するスタンスは多少おかしい。もっとも、そのせいかどうかはしらん。

その容疑者であるところの母は、「あんたらがお腹ん中いる時から、こんなんなってんで」と、ふくらはぎのところに静脈瘤ができてボコボコしている。「いわゆるサポ-ト力の強いタイプのストッキングは静脈瘤に効くらしいで。」と言うと、「ほんま、あんたつまらんこと、よ~知ってるなぁ。ほんなら、それプレゼントに買うて」と言う。

静脈瘤を患っているお母さんは全国に多いだろうから、母の日のプレゼントコーナーに行けばあったのだろうか?普通のサポートタイプだと女性用の服売り場に単独潜行するはめになるが、医療用だとすると薬局にあるのだろうか?しかし、単価が高いから、履いた瞬間に伝線されるとなんだなぁ。かかと用軽石でも渡してお茶を濁すか。それとも、通販なんかで出ている、アメリカの女優さんが宣伝してる、あの釘をつきたてても伝線しない強力なやつを買わないといかんのだろうか?

と、あーだこーだ悩んでいるうちに、何もしてやらずに親不孝暦は何年も続いている。

—MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS————————————
当時の本 『UNTITLED』岡崎京子(角川書店, 980円)久しぶりの新刊だが…いわゆる未収録集。事故から2年、岡崎さん、マンガ描けるくらいに回復するのは難しいのだろうか。


当時の世 ワールドカップ、日本ノーゴール。
当時の私 マンガ家のねこぢるさんが5月に自ら命を断ったと知って、悲しいのとはちと違い、妙に納得してまって、でも、もう新作が読めないのが残念な気がする。

 

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