MANHOLE うすいマンホール

信じてくれない人も多いのだが、ネタの無い時の私は対人恐怖症である。だから、町の中を歩く時、つい下を向いて歩いていることが多い。下を向くのでなければ、虚空に視線を漂わせている。どうも変である。

下ばかり見て歩いていると、マンホールが目に入る。マンホールというのはmanholeであるからして、本来は保守点検のために人間が入れるくらいの大きさのものを言う。しかし、一般には、舗装道路上に散見される蓋状のものは等しくマンホールと言われる。

そのマンホールの表面には、しばしば、何らかの意匠なり文字なりが描かれている。

その時、私の視界に飛び込んできたマンホールには「うすい」と書かれていた。

 

「うすい??」
「もしや、ここは”臼井”さんの私道なのでは?」「いや、待て。このマンホールは”薄い”のかもしれない。小さい頃に公園の砂場を掘って作った落とし穴の要領で、この上を通るとこの蓋状のものがバリッと割れて、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~てな感じになるかもしれないという警告なのでは?」
「”さわるな!危険”とか”食べられません”みたいなものか?」

「頓智小僧の一休さんは、”このはし渡るべからず”とかかれた橋のたもとで、”端をわたらなければいいんでしょ。”とのたまって橋の中央を渡ったそうだ。やな小僧だなぁ。」
「するってぇと、何かい。この”うすい”ってのはなにかの謎かけだってのかい?」
「歴史上の一休さんは、小僧の時の名前は一休じゃなかったらしいですよ。たしか、周建という名だったとか」

「下水のマンホールには”おすい(汚水)”と書いてあるし、”う”は”お”の二つ上だから、ちょっときれいな水が流れてんじゃないですか?」
「じゃぁ、”えすい”ってのもあんのか?」

などというアホな独り対話を1秒以内でこなす私であった。

とりあえず、このマンホールをやり過ごして歩く私の頭の中は”うすい”の謎で一杯であった。そのせいで、やたらと視界にマンホールが入ってくる気がする。普段は全く気にしていないものも、気になり出すと無性に気になる。雨の日の夜に雨だれの音が気になりだして眠れなくなったりすることは誰にでもあるだろう。

ちなみに、雨が降った時のための排水溝が集まる場所のマンホールには”あめ”と書いてある。

なぜに”うすい”なのか?悩む私の視界に次々とマンホールが飛び込んでくる。

そして、私は見た。

「雨水。あまみず。うすい...なるほどな。」

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です