Common sense 似非常識人として

ぼくは、よく東急田園都市線を利用する。

なぜに田園と都市というおよそイメージの違う単語を平気で並べられるのか、こちらに越してきた頃は疑問で仕方がなかったのだが、おそらく、庭園や街路樹を「自然」だと勘違いしている「都会の人」の発想であろう。いや、まて、田園さえ、人為を加えた食料製造工場に違いない。でも、やはり都市と田園は併記不可だとぼくは思う。田園が人為であれ、その周囲にはおそらく本来の自然が残っているものだろう。

都会に生きる人は規範を作る。田舎の人のウェットな感じの方がいいとはいわないが、都会の人は現実の人同士の接触を欠くので、規則を作りそれを社会常識として見かけ上の関係を保つ。情報のみで作り上げられた規則には、経験則のような体験的実感的裏付けがない。

東急の車内アナウンスは言う。「携帯電話のご使用は他のお客様のご迷惑になりますので、ご遠慮くださいますよう、お願いいたします。」なるほど、機械から発する電磁波が、ペースメーカーを誤作動させたり、機体の制御装置に影響を及ぼす例がいくつか報告されているが、おそらく、ここで問題になっているのは公衆の面前における大きな声であろう。

目の前に相手のいない対話は、非当事者にとっては独り言にしか聞こえない。ただやかましいのが問題ならば、気だるい朝からかしましい高校生や、疲れた夜に騒々しい酔っぱらいは、他のお客様のご迷惑になるので、ご乗車をご遠慮いただかねばなるまい。

昨今、爆発的に普及している携帯電話。毎日の職場と寮との往復の間に、平均10人以上の話し中の人を見かける。「そんなに、繋がっていたいの?」

 俺時々僕ところにより私
俺時々僕ところにより私
http://muccitexi.com/1997/12/15/hello-are-you-there/
I, My, Me

でも、車内で携帯を使う人の声を聞く頻度は、東急の車内アナウンスを聞く頻度よりは遙かに少ない。多くの人々のうちの一部であるケータイユーザーの内の、これまた一部の車内で使う人の、そのまた一部のはた迷惑な声量で喋る人に注意を促すために、無関係な多くの人にくどい注意を聞かせる。この東急のセンスに疑問を感じる。それに本来この注意を促したい御本人様は自分の声がでかいので車内アナウンスなんて聞いちゃいねぇ。

それでも、東急は「いや、一応、私は注意を促してますからね。」と言わんばかりに、表面ばかりの説教をする。まだ、JRの「車内で携帯電話をご使用になる時は、他のお客様のご迷惑にならないよう、お気をつけください。」の方が現実的だ。(その後どうやら、ご遠慮ください路線になったようだが)

東急はさらに言う。「デイパック等は、他のお客様のご迷惑にならないよう、網棚に乗せるか、前に抱えてご乗車下さい。」デイパックはぼくも使う。大阪にいた頃、近所のおばちゃんに「この頃の若い子は、ピクニックに行くんやないのに、リュックサック背負ってんねんな。やっぱし流行ってるからかなぁ」と言われたことがある。オバハンの思い込みはどうでもよろしいが、このデイパックもかなりの普及率を誇る。せっかく前に抱えていても、さぁ電車を下りるぞってんで、背中に振り出したバッグが後ろにいる人へのロングフックになる時もある。残念ながらデイパックには神経が通ってないので、殴った側は痛みを感じない。殴られ損である。前に抱えてれば済む問題じゃない。まだ、「背中のデイパックの中の財布を抜き取るスリによる被害が多発しています。ご注意ください。」の方がいいかもしれない

懲りずに東急は次の駅を出た直後に言う。「読み終わりました新聞・雑誌等は、網棚などには置かず、自宅にお持ち帰りになるか、駅備え付けのごみ箱にお捨てください。また、飲み終わりました空き缶・空き瓶は、車内に放置せず、駅備え付けのごみ箱にお捨てください。車内美化にご協力ください。」みんながみんな古新聞古雑誌を網棚におけば、そりゃ大変だろうが、適当にパラパラと置いていかれるそれらは、次にそこに来た客に読まれたりしてしっかりリサイクルされている。マナーを説くのなら、飲み終わった空き缶の処置を説く前に、電車の中で飲食することを何故疑問に思わない。このセンスが疑問だ。どの注意も、わざわざ車内で指導されるようなレベルの問題でなく、各自が身につけるマナーの問題であり、各家庭の躾けの問題である。

センスのない人にコモンセンスを説かれても説得力はない。一般常識にいささか問題のある私が、この件に関してカリカリしたところで、これまた説得力がない。

—MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS—————————————
当時の本 『糞袋』藤田雅矢( 新潮社, 1400円)「そんなに糞を恨むではない。誰もみな、糞のつまった糞袋よ。」運命に揺さぶられる糞尿配達人イチ。突きつけられる死。かけがえのない生。これはグロな色物ではない。感動巨編だ。
当時の世 プロスポーツ界に脱税指南
当時の私 パワーユーザーとかマニアとかオタクとかと思われてる節がある。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です