In a crowded train 会社員ごっこ 2

私は、おおよそ1時間とちょっとの時間をかけて通勤している。そのうち始めの15分ほどは寮から最寄り駅までの徒歩に費やされるのであるが、この頃は、堕落してしまったので、バスに乗ることが多い。

通勤でバスに初めて乗った時、何故かみんな、終点の駅の停留所の一つ手前で下りるので不思議で仕方がなかったのだが、どうやら、その停留所と駅の停留所の間に信号交差点が三つあって、最後は右折してロータリーに入らないといけないため、思わぬタイムロスをするらしい。だから、みんな一つ手前で下りて、「きゃぁ~、今走らなきゃ、あの電車に乗り遅れて、私の人生が変わってしまうのよぉ~」と言わんばかりのダッシュをみせるのだ、ということに気がついた。

どうして、みんな、あんなに、目の前で点滅する歩行者用青信号や、電車の発車間際のベルを聞いて駆け出すことが出来るのだろう。そんなことだから、ただでさえ過剰な車内放送で「駆け込み乗車は、思わぬ怪我をすることがございます。」などという余計な心配までされるはめになる。大人がわざわざ注意を受けるようなことではない。

 俺時々僕ところにより私
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I, My, Me

駆け込み乗車はしなくても、押し込み乗車はしないと乗れないこともある。何故、あんなに過剰な人数の乗客を乗せて、あんな乱暴な加減速で走るのだろう。荷物を運ぶトラックならば、過積載は処罰の対象になるらしいが、電車ではそれがないのだろうか。

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I, My, Me

電車の中では、人々は目をつむったり、本や新聞を読んだり、耳をヘッドフォンでふさいだりして、五感の一部あるいは脳をこの混雑からそらして、対応している。いわゆるパワーセーブあるいはサスペンドモードに入るのである。これから職場に赴いて働こうというのに、朝の通勤ごときでパワーを消費するわけにはいかないのだろう。

かくいう私はそのような、高級なモードは装備していない。文庫本を開くのでさえ、ある程度、空いた車両でないとできないのである。おまけに人と接するような距離にいることは、たいへん苦手である。意識している以上に気を消耗してしまって、朝っぱらから疲れてしまう時もある。

さらに自分の四方を囲む人の中に女の人がいるような場合は、動悸、息切れがして「救心」が必要な状況に陥る。しかし、「救心」を持ち歩く習慣はない。タイプな人だと、ますます症状がひどくなる。だからと言って、荒い息遣いで肩に手をかけて助けを求めたりしたら、「某メーカー社員、通勤電車内で破廉恥行為」などという見出しが雑誌の吊り広告に踊るような誤解を招くかもしれないので、やむをえず途中下車して呼吸を整えた上で再乗車することもある。そのためには各駅停車の方がよい。

座れた人は座れた人で、下顎や延髄といった急所をさらしたまま眠りこけている。通勤中に貴重な睡眠時間を稼ごうという魂胆なのだろうが、よくもまぁそんな無防備な姿勢で眠れるものだ。日本の平和がありがたくなる。そして、私はその無防備な人にうかつな攻撃をしかけないよう。吊り革やカバンと文庫本で手をふさぎ、自分を拘束するのである。

そんなこんなで出社し、なんとかその日の仕事を無事に終えても、また、帰りの電車に乗らないことには家には帰れない。

それにしても、なんでか何時の時間に乗っても電車が混んでいる。遅くなったら遅くなったで、空いているというわけでなく。早めに仕事が終わって、一杯引っかけて来た人と、遅くまで残業がんばってぐったりした人を詰め込んだ電車はあいも変わらずの激しい加減速と揺れをみせる。ただでさえ、足下のおぼつかない酔っぱらいは横や後ろの人にぶつかる。それを介抱する軽めの酔っぱらいが、「酔っぱらいなもんで、どうもすいません」と言い訳にもならない言い訳をする。喉までツッコミが出かかっても、酔っぱらい相手にしらふがからむわけにはいかない。

車内放送が「車内での携帯電話のご使用は…」と毎度のようにクドクドと言うが、おかまいなしに「もしもし、あ、今、電車の中。もうすぐ帰るから」と帰るコールをする人がいる。なぜ、そうまでして連絡をとらないと絆が保てないのだろうか。多分、駅に着いたら「もしもし、あ、今、駅着いたとこ。」と電話するのだろう。「もしもし、あ、今、バスに乗った」 「もしもし、あ、停留所ついたとこ。」 「もしもし、あ、今、門の前。もうすぐ玄関に着くよ。」「ただいま」お互いを目視しても携帯で話してなさい。

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I, My, Me

夜のとばりが落ち
一日の業務が終わるころ
帰宅を急ぐサラリーマンの間でもうひとつの戦いが始まる
この戦いの中
ひとつの伝説が今夜も走る
その中間管理職は必ず座って帰るという

その名も…流星課長

しりあがり寿のサラリーマンマンガ三部作の一『流星課長』の中の一節である。流星課長は京王線で八王子から新宿まで通勤している。大変であろう。ちなみに、あとの二作は、真実の愛を見つけるまでヒゲをそらないと決めたOLの『ヒゲのOL・藪内笹子』と、天才小学生が世間を動かす『少年マーケッター五郎』である。ちょっとヘタウマ系の絵なので、好みの分かれるところであるが、なかなか感動するものがあるこの三部作である。しかし、本屋のレジに持っていくのは多少はずかしい。電車の中で開くのはさらにはずかしい。

—MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS—————————————
当時の本 『みつえちゃんが行く!!』青木光恵(双葉社) 週刊SPA!で連載されていた『ローリング光恵スペシャル』の単行本化である。視点がおもしろいエッセイマンガ。ちなみに私は同郷である。


当時の世 第一勧業さわいでるが、俺の給料は無事か?!
当時の私 思考のまとまりが悪い。分裂モードからの戻りも良くない。

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