Kansai Walker お歩きになる方のために

電車には毎日のように乗る。通勤時間のうち電車に乗っているのは往復80分くらいだから、このところ、ぼくの人生の約18分の1くらいは、電車の中で過ごしていることになる。急行電車の混雑はあまり好きではないので、各駅停車を利用することが多い。ひょっとすると、駅で電車を待っている時間まで含めると、人生の15分の1くらい使っているかもしれない。

ぼくは関西の出身である。上の段落で何気なく各駅停車と言ったが、ぼくが関西圏にいた頃は、各駅停車のことを「普通」と言ってた気がする。こちらに越してきて、駅のアナウンスを聞いたり、表示板を見ても、「各駅停車」となっている。辞書にも出ているから「普通」が関西弁というわけでもないだろう。みなさんせっかちなので、普通は急行電車をご利用になるから、「各駅停車」を「普通」と呼ぶのは改めて考えると、そこはかとなくおかしい。

前に人から聞いた笑い話で、インドの人が日本で特急に乗って、車掌に特急料金を請求されて「この電車の方が早く着くのだから、座席の占有時間は短いはずだ。なのに、どうして、特急の方が運賃が高いのだ。」と抗議したというのがある。この手のジョークは時折、人種差別だと怒られる可能性があるので慎重に使わなければならない。しかし、慎重に笑い話をしたのでは、笑える話も笑えない。まぁ、所が変われば、当然、常識も変わるというような意味の訓話と思って聞けば、慎重なままで耐えられるかもしれない。

時間やコストに対する感覚は、人や場所によって違う。当たり前である。急行を使ったからといって、1日が24時間であることに変わりはない。電車の中で過ごしていた時間を、家ですごせたり、あるいは出先で使えるようになるだけの話である。適度に空いている電車なら、落ち着いて本も読めるし、外をぼや~と眺めたり、瞑想や妄想にふけることが出来る分、私はそういう電車の中の時間はさほど嫌いではない。

再び、言い回しに戻るのであるが、東京圏で「次の電車」というと2本あとの電車のことであり、1本あとの電車は「こんどの電車」である。関西人感覚で「こんどの電車」と言われると、今まさにホームに滑り込まんとしているその電車という趣があるような気がする。ちなみに関西では、1本あとは「次の電車」。2本あとは「次の次の電車」である。念のために記しておくが、駅のアナウンスで「次の次の列車は…」ということはない。神戸の路線の一部に、東京式の表示板を見たことがある。設備を入れる時、東京の業者を入れたのだろうか。

大阪梅田の阪急電車のターミナルなら、京都線・宝塚線・神戸線と3方面にそれぞれ三複線になっているから、ホームの表示板などは「先発」「次発」「次々発」と表示されている。これらを見ると、やはりよく言われているとおり、関西人はせっかち、関西語彙でいうところの「イラチ」なのかなぁと思ったりする。

関西人が張り合おうとするのは、あくまで東京人である。『Tokyo Walker』に対応するのは、けっして『Osaka Walker』ではなく、『Kansai Walker』は『Kanto Walker』に張り合おうというものではないのだ。

『Tokyo Walker』ってわりには電車や自動車を利用しないといけないよなぁ。なんてつまらんつっこみをしたりするが、それを言うのなら『地球の歩き方』は飛行機を利用しないことにははじまらない。

イラチな関西人は駅のエスカレータでも歩くし、”動く歩道”ムービングウォークの上でも歩く。東京人とて、電車の発車間際は悲壮な面持ちでダッシュする人がいるらしいことを認識している私であるが、『Kansai Walker』とはじっとしてても移動出来るはずの所でも歩いてしまう人のことを指しているのではないかと思う。

だから、優雅なバカンスとは程遠い、短い休暇に効率よく安上がりに遊んだことを自慢気に話す人が関西人の中にはいる。

通勤途上の話にする予定だったのだが、比較文化学になってしまったようだ。人生の15分の1がかかっているだけあって、通勤電車には突っ込みを入れたいことが多いのだが、どうも、さらにとりとめがなくなりそうなので、それはまたの機会にまとめて述べることとする。

—MURAKAMI-TAKESHI-IN-THOSE-DAYS————————————
当時の本 『獏の食べのこし』中島らも(集英社文庫, 460円)「地上の人口は増えているが、獏の数は減っていて、獏の食べ残す夢の量はどんどん増えている。」その食べ残しをらもさんがかみ砕いて食べさせてくれるので、消化が早くて、すぐ読みおえてしまった。


当時の世 本屋に行くと、新潮”ヨンダ”と集英”ヒロスエ”の増殖に目眩がする。
当時の私 日曜日も仕事をしたので、作者急病のため休載になる予定であったが書いてみた。

 

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